ディープの物語7

 そして、あれからまもなく1ヶ月目のその日のこと、エリンはいつものように、ラディとの待ち合わせ場所に急いだ。


 停まっているエアカーの中、ラディはハンドルに顔を伏せていて、エリンが窓を小さく叩くと、ハッと顔を上げ、珍しくサングラスをかけたあと、ドアを開けてくれた。


「こんにちは」

 エリンが座り、シートベルトをしても、ラディはなかなかエアカーを動かさなかった。

「エリン。君は今日、大丈夫? 僕は……ダメだな」

 ラディがサングラスをかけている理由がわかった。

 たぶん、さっきまで……。涙のあとがあった。


「僕は差し入れだけして、帰るつもりだけど、君はどうする? 無理する必要はないよ」

 いつも、ディープとエリンが話している間、ラディは片付けをしたり、食事の用意をしたりしていた。


 その朝、ヴァン所長から2通の手紙を受け取ったエリンは、ベッドで毛布をかぶってひとりで泣いていても、きっとモーリスは喜ばないだろうと思った。何よりディープのことが心配で放っておけない気がしていたのと、エリンは今、ひとりでいたくなかった。


「私は……行きます。ラディさんの方こそ、大丈夫ですか?」

「僕は、今日はひとりになりたい」

 哀しみ方はそれぞれで、ひとりでいたいと思うときも、誰かにそばにいて欲しいと思うときもある。

「でも、僕のことは気にしなくていいよ。自分でどうしたらいいのか、わかってるから」

 今は無理だけど、ラディはきっと大丈夫だろうと、エリンは思った。

「私は……大丈夫です」

「わかった。それじゃ、行こうか」

 ラディはエアカーをスタートさせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る