ディープの物語8

 ディープの部屋の近くで、エリンはエアカーを降りて、差し入れを受け取った。


「それじゃ、これをお願いするね」

「はい。運転、気をつけてくださいね」

「ありがとう。また連絡するよ」

「ええ、また」

 ラディはいつも帰る道とは違う方向に行った。どこか向かう場所があるのだろうと、エリンは思った。


 ラディを見送ったあと、エリンはディープの部屋を訪れた。

「あれ、今日は君ひとり?」

「ラディさん、今日は来られないそうなんです」

「そうなんだ」

 迎えてくれたディープはいつもとあまり変わらない様子だったので、エリンはひと安心した。


 しかし、はじめはよかったが、だんだん口数が少なくなって、ディープは再び大きな哀しみの中にあった。


 頭の中に、何度も同じシーンが繰り返しよみがえってくる。


 あのとき……。


 ラディはディープの腕をつかんで、静かに首をふってひきとめた。

 ヴァンもうなずいていた。


 それでも、ラディの腕を振り払ってでも、まだ何かできることがあったのではないかと、ディープは思ってしまうのだ。

 グラントとステフは間に合わなかったから。


 ディープはモーリスの言葉を思い出す。

『ディープがどうしてもそうしたかったら、僕をひきとめてもいいよ。納得なんてできないと思うけど、どこかで手を離す時が来るからね。でも、大丈夫だよ。そのときのディープの判断がどんなものでも、僕はそれでいいと信じるよ』


(本当は……!)ディープは思う。

 本当は……そういうあらゆる事情を別にして、どんなことをしてでも、無理やりにでも、こちら側にひき戻したかったのだと。同時にそれはただの自己満足なのだとわかっていても。

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