ディープの物語5

 それから、ディープはエリンに、今までのことをポツリポツリと話すようになった。


 例えば、モーリスは静かに見送って欲しいと蘇生措置を望まなかったから、反射的に身体が反応しそうになったディープは、ラディに止められたときのこと。


『ディープがどうしてもそうしたかったら、僕をひきとめてもいいよ。納得なんてできないと思うけど、どこかで手を離す時が来るからね。でも、大丈夫だよ。そのときのディープの判断がどんなものでも、僕はそれでいいと信じるよ』

 そう言ったモーリスのこと。


 モーリスをかばったときのケガのこと。

 再生医療が進んだ現在いまでも残ってしまった傷痕きずあとは、忘れることのできない出来事のあかしだった。


 それから、それから……。


 話はどんどんさかのぼっていって、エリンはふたりの間のたくさんのつながりを知った。

 そうしていろいろ話を聞くうちに、ディープが本来持っている温かさが見えて、今まで多くの患者さん達が救われたのだろうと、エリンは思った。

 もちろん、モーリスも。


 ディープの話を聞くことは、エリンにとっても癒やしとなった。

 そして、いつのまにか彼に惹かれていく自分に気がついて、戸惑いを感じていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る