ディープの物語4

 何度目かに訪れた日、このときはラディに先に行って欲しいと言われ、エリンはひとり早めに着いてしまった。

 少しためらい、思い切ってドアのチャイムを鳴らすと、ディープの声がした。

「開いてるからかまわないよ。どうぞ、入って」


 エリンが部屋に入ると、ちょうどシャワーを浴びたあとらしく、ディープは髪をタオルで拭いていた。下はカーゴパンツ、上半身は何も着ていないという姿だったので、

「失礼しま…キャッ!」

「うわっ、エリン、君か! ラディだと思って……ごめん」


 ディープは急いで背中を向け、シャツを取って、袖を通した。エリンは、そのディープの右肩から背中にかけての大きな傷痕きずあとを目にとめた。

「前にひどいケガをしたんですか」

 ディープは右肩に手をやって、

「ああ、これ。前に、モーリスをかばったときに……」

 そこまで言ったとき、急にディープの動きが止まった。彼は高まる感情の波を感じ、戸惑っていた。突然、涙が突き上げてきて、ディープは床に両膝をつき、涙をこぼして声を上げた。

「ああっ……」

 はじめての涙、だった。


 ディープはそれまで、モーリスがいなくなったそのあとのことについて、考えてもいなかったのだ。


「哀しみ方はひとそれぞれだけど、哀しみを押し込めてはダメです。哀しみが大きければ大きい程、充分哀しむ必要があるんです」

 エリンはディープの傍らに膝をついて、背中にそっと手を置いた。


 遅れて来たラディは、泣き崩れているディープと、寄り添うエリンの後ろ姿を目にした。

(ああ……。やっと……)

 ラディは、ディープが職業柄、無意識に感情を抑えていることを知っていた。やっと、彼はひとりの友人としての立ち位置に、戻ることができたのだった。

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