ディープの物語3

 次に来たとき、ラディはエリンを引き合わせて、ふたりで話しやすいようにと、席を外した。


「エリン……」

 弱々しくそうつぶやいたディープを、別人のようだと、エリンは思った。


 エリンはあの夜、ヴァン所長がひとり、モーリスの横で長い間、涙しているのを見ていたし、ラディがときどきどこかにいなくなっては、少し腫れた目で帰ってくることに気がついていた。

 でも、ディープは哀しみを置き忘れたようで、呆然として、どうしたらいいのかわからないようにみえた。


「これは何? カウンセリング?」


 エリンにとって、ディープは非常にやりにくい相手だった。それでも、彼女は向き合うことに決めた。お願いされたからというだけではなくて、同じ痛みを持つ相手として。


「どう思ってもかまいません。私はただ、お互いの大切な人について、一緒に話そうと思っただけです」


 ディープはなかなかエリンに心を開こうとしなかった。

 エリンは自分のチカラ不足を感じながら、それでもあきらめたくなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る