エリンの物語7

 それからは、エリンが訪れたとき、モーリスはほとんど眠っていて、わずかに言葉を交わしただけで眠ってしまうこともあった。


 そのときも、ふと目を覚ましたモーリスは、

「…ああ、エリン。来ていたんだ。良い匂いがするね…お花?」

「ええ」

 エリンは微笑んで、よく見えるように花瓶をモーリスの方へと向けた。

「季節のお花、可愛いでしょう?」

「うん」

 少ししてモーリスが急に身体をこわばらせた。わずかに眉をしかめたのがわかった。

「痛みますか?今、ドクターを」(……!)コールボタンに伸ばした彼女の手を、モーリスが押さえていた。

「モーリスさん?」

「いい…呼ばなくて」

「でも…!」

「このまま…手、握って」


 手を握ってしばらくするうちに、モーリスの身体からチカラが抜けた。

 眠りに落ちる前、「あのね…」

 彼が小さな声で何か言おうとしているのを聞き取ろうとして、エリンは耳を近づけた。

「君と会えてよかった。もう少し早く、出会っていれば…」

 モーリスはそう言っていた。


 エリンは両手で握ったモーリスの手を頬にあて、長い間、ただ黙って傍らに座っていた。


 ……そして、静かにその時は近づいていた。


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