エリンの物語3
ディープは、モーリスの部屋にいるエリンを何度も見かけたので、ラディにたずねた。
「最近、エリンはよく来てるよね」
「僕がお願いしたんだけど。エリンは精神科医だし、彼女が来るのをモーリスは楽しみにしてるみたいだから」
ディープはその日、眠っているモーリスに、エリンがそっとキスしているところを偶然、見てしまっていた。
「ちょっとエリンと話したいから、彼女が帰るとき教えて」
ラディは(?)と思ったらしいが、口には出さなかった。
「わかった」
ディープは確かめたいことがあった。
「エリン、君はどういう立場でモーリスに会っているの?精神科医として?それとも、もし、特別な感情を持って会いに来ているのなら、あとできっと辛くなるよ。僕は、主治医と友人という立場の間で悩むことが多いから、君もそうならなければいいと思う。余計なお世話かもしれないけれど」
「私は…」
エリンはディープにはっきりと指摘された。何故ここに来るのか、本当は自分の気持ちがよくわかっていなかった。
父親が亡くなったあと、モーリスの顔が浮かび、知らせなくてはと思ったこと。それは、もう一度会いたかったからだと、今、気がついた。
彼女は目をふせて、小さく首をふり、
「私は、そんなふうにふたつの立場に線を引いて使い分けられる程、器用じゃありません。ここは診察室ではないですし。正直に言えば…ただ、彼に会いたい、そばにいたいと思っただけです。それだけではダメですか」
ディープは限られた時間の中で、自分とは別の形でモーリスを支えようとしているエリンの覚悟を知った。
「…わかった。僕達にはできない、君だけにできることがあるんだね」
エリンは微笑んだ。
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