エリンの物語2

 エリンは、よくお花を持って部屋を訪れた。

「こんにちは」

「やあ、エリン」

 起こしたベッドに寄りかかって迎えたモーリスに、

「今日は調子良さそうですね」

「うん」

 可愛らしい花束を抱えたエリンの笑顔を見たとき、突然、モーリスは気がついた。

(ああ…)

 今の自分に失いたくないものがあるとしたら、それは彼女の笑顔だと。


 お花を飾ろうとしている横顔を見つめながら、思わず小さなつぶやきがもれていた。

「…綺麗だ」

「え?」

 エリンがふりむいたので、彼はうろたえた。

「あ、その…。綺麗なお花だね」

 エリンはクスッと笑って

「モーリスさんのお部屋は殺風景過ぎて。お花があると違いますよね?」

 確かに、何の飾りもなくモニターや端末ばかりの部屋で、そこだけが鮮やかに彩られていた。

「うん、いつもありがとう」

「どういたしまして」

 たわいのない会話をかわす穏やかな時間だった。


(あとどのくらい…?僕には一緒に過ごす時間があるんだろう。このままずっと時が止まってくれたらいいのに……)


 かなわない願いだと知っていても、そう思ってしまう自分がいた。

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