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 彼女は数分を待たずして扉の鈴を鳴らしに来た。

「こんにちは!」

 明るい笑顔だ。こっちまで自然と気分が晴れてしまう。

「こんにちはリーシェ。昨日ぶりだね」

「うん、遊びに来たよ」

「父さんにはバレないように?」

 途端にリーシェの言葉が詰まった気がした。

 困った表情でリベルは会話を繋いでみる。

「ジュースなら有るけど飲む?」

 リーシェがまた笑顔になって頷いたので、リベルは自分の代わりに椅子に座っておくようにと促して二階の冷蔵庫へと足早に上がって行った。

 二人分のジュースを注いで戻って来た頃には、リーシェはリベルに負けず劣らずの、まるで大王になったかのような腰の落とし方で椅子に鎮座していた。

「気分は一日店主だね」

 そう声を掛けると、リーシェは嬉しそうに持ってきたジュースを受け取る。

「ローレンツさんがいなくてもお店開いてるんだね」

「あまり人が来ないからね。それより、遊びに来たんだろ?」

「そ! 昨日の続き!」

「じゃあこっちだ」

 そう言ってリベルはそのままカウンターの奥へと入って行く。

 少し心配そうに、リーシェはその後を付いて行った。

「誰も居なくなっちゃうけど大丈夫なの?」

「大丈夫だよ、ホントに誰も来ないんだ」

 リベルが棚の中から昨日のピンボール台を取り出す。

 昨夜とは違って今日は鉄格子から充分な日の光が差し込んできている。

 ライトは必要なさそうだ。

 リベルは昨日のように台を同じ机の同じ場所に置き、二人分の椅子を向かい合わせて用意した。

「三本勝負ね!」

「良いよ。じゃあ、負けたほうはどうする?」

「罰ゲーム? そうねぇ……なら、また遊んでくれるって約束!」

 言葉の割には、リーシェは大して悩んだ様子はなかった。

「何だよそれ」

 リベルは苦笑しながらリーシェを見る。

「遊ぶならいつでもできるだろ?」

 当然のように答えたリベルだったが、怒ったように目を細めたリーシェを見て胸が詰まるのを感じた。

「あ、やっぱり覚えてないのね!」

 慌ててリベルは自分の記憶を遡る。

 しかし、いくら思い返しても心当たりのあるような出来事が浮かばない。

「リベルね、前に会った時も最後にそういう約束したのよ」

「……そうだっけ」

 前の時、というと数年前にガレットと一緒に来たあの時だろうか。

 会っていた記憶は在る。

 もちろん、それ以前に何度か一緒に遊んだ記憶も朧気ながら忘れたわけではない。

 だが、その中の事細かな会話の一部など、リベルの頭からはすっぽりと抜け落ちていたようだ。

「あのねぇ、私はアナタといつ遊べるのかなーって、ずーっと楽しみにしてたのよ」

 そう言われれば、とリベルは改めて記憶を漁った。

 確かにそんな約束をした気がする。いや、リベルにとってはそれほど大事なものでもなく、毎回お別れの度にそういう『決まり台詞』のような感覚で返事をしていたのだろう。

 リーシェにとってそれが記憶に留めて置くくらいの大切なことだとは、リベルは思いもしなかった。

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