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 翌日。

 朝早くからリベルは店のカウンターで椅子にどっかりと腰を落としていた。

 今日は父親のローレンツは出掛けている。

 買い出しに行くと言っていた気がするが、二度寝の最中だったリベルにはその時の言葉は夢見心地で良く覚えていない。

 ローレンツもそのことを気にしていたのか『夕方には戻る』という書置きをカウンターに残していたので、幸いにも父親が突然蒸発したわけではないということはリベルにも理解できた。

 とはいえ、暇だ。

 こうやってたまに父親の代わりに番をすることがあるのだが、客が来ない時には本当に来ない。

 その代わりに事実上働きながら椅子で居眠りできるので、この店の仕事は最高だとも思えた。

 そうやってリベルが微睡んでいると、奇怪な音が耳に入り込んだ。

 何かが崩れ落ちるような音。

 慌ててリベルは椅子から身を起こす。

 倉庫の方からだ。

 泥棒か? いや、あそこに入る手段はここを通る以外にないハズだが……。

 ともあれ、今のこの店には自分一人しかいないのだ。確かめてみるしかあるまい。

 リベルは二階の廊下をそっと歩く以上に慎重に身を乗り出した。

 護身になる武器などは置いていない。

 有るとすれば、今まさに向かう倉庫くらいだろう。

 そっと、倉庫の入り口から中を覗きこむ。

 そして、気の抜けたような息を吐いてしまった。

 そこにあったのは、昨晩も見た顔と流れるような薄い銀髪の少女の姿。

 中に居たわけではなく、倉庫の天井近くで等間隔に牢屋の鉄柵のような物しか据えられていない剥き出しの穴からその顔を覗かせていたのだ。

 気持ち程度に鉄格子が嵌められているので、小さな虫や小動物くらいならばそこを通れそうではある。

「……リーシェ?」

 リベルが名前を呼ぶと、リーシェは慌てて顔を下げた。

 もしや本当に忍び込む気でいたのだろうか。

「もうバレてるよ。何をしてるの?」

 呆れた声でリベルは見えなくなった人影に声を掛ける。

 恐る恐るといった様子で、その影は再び姿を現した。

「……リベル?」

「そこからどうやって入るつもり? 店は開いてるよ、表からおいで」

 しかし、リーシェは中々動く様子はない。

 リベルが訝し気にしていると、鉄格子の向こうから恐る恐るといった音で言葉が投げ掛けられた。

「ローレンツさんは?」

「父さん?」

 そこでリベルは「あぁ」と少し納得した。

 父親に来たことを知られたくなかったのだろう。しかし、何故?

「父さんは今は居ないよ。僕一人だ」

「今行く!」

 リベルの言葉に素直に安堵したのか、覗かせていた顔がヒュッと消えた。

 と同時に、大きく何かが崩れる音がして、リベルはまた納得した。

 恐らく、木箱か何かを積み上げてその上に乗っていたのだろう。

 先程の音は、それが一部か全部か崩れた音だったのだろう、と。

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