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 聞き慣れた小さな鈴の音が聞こえた。

 古びた店の扉が開かれた音までは届かなかったが、代わりにその鈴が来客を知らせてくれる。

 今夜が始まって最初の鈴。

 ということは、きっとあの人だろう、とリベルは冷蔵庫を閉じて予想した。

 閉店してから最初に顔を見せる人はいつも決まっている。

 そろそろ父親とその客との談笑の声が聞こえてくるだろう。

 リベルは足音を殺して階段の側をそそくさと過ぎ去った。

 商売は始まったようだが、自分には関係の無い話だ。

 知り合いが来たからとつまらない世間話に巻き込まれるくらいなら、自室でゆっくりくつろいでいるほうが断然良い。

 だが、そんなリベルの思いとは裏腹に大人はそう簡単に子供の都合を悟ってはくれないようだ。

「リベル! 起きてるか!?」

 階下から父親の呼ぶ声がする。

 姿を見せたならまだしも、何もしていないのに呼ばれるのは珍しい。

 もしかしたら歩いて床を軋ませた音でも聞こえてしまったのだろうか。

 どちらにせよ、このまま無視するのも悪く思ったリベルは、廊下を逆戻りして階段を降りた。

「やぁ、リベル。夜遅くに済まないね」

 顔を出してすぐに、父親とは違う知った声が耳に入った。

 長身細身、白髪掛かった頭髪と口元の髭。

 黒っぽい中折れハットとトレンチコートに身を包んだその男性は、長方形の眼鏡の中からリベルを見ると、口角を少しだけ上げた。

「こんばんは」

 リベルは簡単な会釈で挨拶をする。

「今日も何か届けに来てくれたの?」

 リベルがそう問うと、長身の男性が今度は両方の口元を大きく広げた。

「……ハッハッハ! ローレンツ、リベルも中々良い接客ができるようになったな。いやこうして見るとずいぶんと大きくなった、本当に」

「冗談はよせガレット。まだまだ半人前だよ」

 父親、ローレンツが苦笑いでそう返すと、階段を降り切ったリベルに顔を向けた。

「ガレットがお前に用があるらしい」

 そう言われて、リベルは改めて長身の男性、ガレットの全身を視界に収めた。

 何か用があるという心当たりはないが、こういう時の大人の都合は至ってシンプルに面倒事が多く感じる。

 そこでリベルは、ガレットの影に隠れたその身長の半分くらいの人間がいることに気付いた。

「まぁそう身構えんでくれ。今日は娘を連れて来たんでな」

 今まで声が聞こえなかったからか、ガレットの後ろに隠れ切っていたからか気付かなかったが、その人影はガレットの背からひょこっと顔を出すと先程のリベルと同じ様に頭だけ軽く下げて会釈してみせる。

「こ……こんばんはー」

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