アリアンテールの白い糸
黒華夜コウ
P.1
少年、リベルは自室の窓に両腕を重ねるように置くと、青い瞳でぼんやり外を眺めながら取っ手の無いカップを唇に当てた。
ボサッとした白髪に色白の細腕。特に眠くもないのに虚ろな瞼は、これでもゆったりとした夜の一時を満喫していた。
虚弱だと思われがちな外見は、彼より少しばかり濃ゆい、白を基調にした麻の服がより一層そうさせている。
それほど飲みたかったわけでもない果実入りの黄色いジュースが口に入ると、数回口の中で果実を転がしてみては喉に流しこむ。
外は明るい。小さく瞬くあの夜空の星たちとは対照的に、真下のこの町は人工的な明るさで輝いている。
この町一番の娯楽とも言える酒場。その電灯に群がる大人達の影。
これがいつもの風景を辿るならば、きっともう数刻もすればあそこには中に入りきっているか心配になるくらいの人数が押し寄せてくるだろう。
まだそうなっていないのは、空が夜に馴染んでそう経っていないからだ。
リベルの家で経営している道具屋も、つい先程なにも買わずにいった最後の客の背を見送ったばかりだ。
ここ最近はそういった客ばかりらしい。売り上げが落ちたと父はぼやいていた。
人間とは異なる怪物。魔物と呼ばれる存在から身を護るための物を売る道具屋……だったのだが、今はそう呼ばれる生き物もとんと見なくなってしまった。
故にこの店に置いてある商品も需要が少なくなり、見る人によれば珍しい物が置いているただの小物雑貨店と化しているのだが、それでもこの店が潰れる様子はない。
今頃父親は一階の店で商品の埃払いでもしているのだろう。
あるいは、カウンターの中に置かれた椅子に腰掛けて、外側にはクローズの札が掛けられた扉を見ながら今日の客を待っているのかもしれない。
リベルはコップが空になったのを確認するかのように視線を落とすと、重ねた両腕を離して新しいジュースを注ぐために窓に背を向けた。
彼が居なくなった窓の真下には、控えめな大きさでこの店の名前が扉の上に取り付けられていた。
道具屋アリアンテール。
この店は、まだ始まったばかりだ。
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