鍛治の国

「なんだか機嫌が良さそうね。」

「わかるか!?次はドワーフの国だぞ!つまり鍛治の国だ!ドワーフの技術を学びたい!紅月をさらに強化できるチャンスなんだよ!」

「嬉しそうね。」

凛は微笑みながら俺を見てくる。俺はドギマギしてしまう。

「す、すまん。つい興奮して…。」

「何謝ってんのよ。いいじゃない。アンタがそんなに興奮することなんて無いんだし。」

「あぁ。これも全てエルフのおかげだ。」

「そうね。感謝しなきゃね。」

話は2日前に遡る。


「やぁやぁ奏に凛。フールだよ。」

「あらフール。どうしたの?」

通信機からフールの声がする。俺は黙って成り行きを見守ることにした。

「耳寄りな情報さ。君たちドワーフに興味はないかい?」

「ドワーフだと!?」

「どうしたのよアンタ。いきなりでかい声出して。」

「やっぱり奏は興味あるよね。何せ鍛治の国の民ドワーフだ。剣士であり鍛治士でありアイテムクリエイターでもある奏くんは是非コネクションが欲しいよね!」

「教えてください。」

「当然教えるけど助けてあげても欲しいんだ。長とドワーフの長は友達なんだけど連絡が来てね。今ちょっとピンチみたいなんだ。」

「ドワーフが困ってたら助けるに決まってんだろ!あっいや待てエルフとドワーフは仲悪いんじゃないのか?」

「確かにそうなんだけどウチの里はどんな種族ともフレンドリーだから当然ドワーフとも仲がいいんだよ。」

「なるほど。」

「さっきから凛が珍しくダンマリだから説明するけどドワーフの国は鍛治の国って言われてるんだ。君の旦那は剣士であり鍛冶士だからこんなに興奮してるんだよ。」

「話を聞いててそのへんは読めたわ。黙ってたのは奏が楽しそうだったからよ。」

「あぁなるほどね。じゃあよろしく頼むよ。可能な限り助けてあげて欲しい。目的地は後で伝えるから。」

「任せろ。」

「わかったわ。」

こうして次の目的地がドワーフの里になったのだった。


それから2日かけて俺達はようやくドワーフの里に到着し早速長に挨拶することになった。

「よく来たお客人。」

「お世話になります。」

「奏です。よろしくお願いします。」

「何よアンタ。ずいぶん丁寧じゃない。」

「馬鹿野郎。初印象は大事だぞ。」

「基本タメ口の失礼な男が何言ってんのよ…」

「ちょっと黙ってくれませんか!?」

「ガハハハ!フールから聞いてた通り面白い二人組だな!奏よ。安心せい。力を貸してくれた暁には貴様にはしっかりドワーフの技術を伝授してやる。」

「ありがとうございます!それで頼みというのは何でしょう。何でもやらせていただきますよ!」

「すいません。この人少し頭がおかしくなってるみたいで…。」

「黙ってくれません!?」

「ガハハハ!そうじゃな。その話をするにも先ずは現状を知ってもらうのが一番じゃろうて。炭鉱に行って話を見てもらうとしよう。」

俺達は顔を見合わせて長についていく。

「ワシらは炭鉱で鉱石を取り武器を造る。じゃが最近はめっきり鉱石が取れなくなった。理由は岩龍が山に現れたからだ。やつは鉱石を食って体内に取り込む。オマケに大食いときた。このままでは山から鉱石がなくなってしまう。」

「龍ですか。なら何とかなるかもしれません。一応ドラゴンスレイヤー持ちですから。」

「それも見越してお前に声をかけた。岩龍は硬い。まともな武器なら歯が立たない。」

長に着いてたどり着いたのは炭鉱の開けた場所の入り口だった。俺達はそっと顔を出して中を確認する。

「アイツだ。暴れられるとここが崩れる可能性がある。そこでお嬢さん。アンタに頼みたい」

凛は頷く。俺は凛とアイコンタクトを取り広場に躍り出た。それと同時にシールドが壁と地面に走り俺たちを包み込む。いつもとは違い閉じ込めるためのシールドだ。

俺は剣を抜く。ドラゴンは異常に気付き俺に咆哮を上げた。


「硬い硬い!」

炎龍王なんて目じゃなく硬い。相手の動きは遅く攻撃を喰らうことはないのでサンドバックだが硬すぎて攻撃が通らない。

埒があかないので一閃はやめる。

俺が距離を取ると岩龍は仰け反り大きく口を開ける。俺はすかさず納刀する。

「天翔一閃!!」

剣戟が空を飛び口の中に入ると岩龍がのたうち回った。流石に体の内部は柔らかいらしい。

岩龍は暫くのたうち回ると動きを止めた。

龍は口から血を流しながらこっちを睨んでいる。流石に一発じゃ死なないらしい。また硬直状態だ。

「爆弾とかないっすかー?」

「発破ならあるぞ。」

「下さい!凛!」

「わかったわ。」

俺は発破に火をつけ3つほど岩龍に投げて凛がシールドを張るとシールド内で爆発が起こり岩龍の体が削れた。

「これはキリがないなぁ…」

「どうするの?」

「仕方ないな。最近覚えたスキルを使うよ。凛はシールドの重ねがけを頼む。」

「分かったわ。数は3でいい?」

「あぁ。」

俺は岩龍の前に立つ。

シールドが三重に貼られる。

「認めるよ。お前は生半可なダメージじゃ倒せない。」

目を閉じるとスキルの瞑想と心眼が発動する。瞑想は次の攻撃のダメージを5倍にし心眼は目を閉じていても相手を捕捉するスキルだ。

俺は納刀し構える。

「乾坤一擲」

今持ち得る最大火力のスキル。瞑想、心眼使用時のみ使用可能。使用後全てのスキルが10分間5分の1の火力になる代わりに莫大な威力の剣戟が繰り出せる。以前試し撃ちで山を割って封印したスキルだ。

スキルを発動した瞬間剣戟から生まれた衝撃波が岩龍をバラバラにしシールドが二つ弾け飛んだ。そのまま俺は大の字になり横になった。

「奏!」

凛が俺を心配そうに見下ろす。

「しんどい…」

「もう…。」

凛が俺の頭を自分膝に乗せて頭を撫でてくる。

「お疲れ様。」

「あぁ…」

「これはたまげたのぉ。あの岩龍がバラバラになっておる。」

「加減はしましたよ。たぶん。」

「これでか!?」

「刀を半分しか抜刀しなかったんですよ。前回山を割っちゃったので。そのフィードバックが体に来たみたいっす。前回は倒れなかったけど今は全身がだるい。」

「本当にたまげたのぉ…」

「とりあえず寝かせて…」

「寝る前にアイテムボックスに入れなさい。」

「手厳しいな。わかったよ。」

アイテムボックスに収納するのは一瞬だ。俺は収納を終えて目を閉じた。


カンカンと何かを叩く音に目を覚ますと頭の下には柔らかい感触。そして目の前には凛の顔がある。

「おはよう。ねぼすけさん。」

「すまん。」

「いいわ。ちゃんと怪我なく勝ったあんたへの褒美だもの。」

周囲を見渡すとドワーフ達が鉱石を掘っている。カンカンという音はこの音だったようだ。

体を起こすと少し頭痛がした。

「もう少し休んでたほうがいいんじゃない?」

「凛の足が痛いだろ。」

「バカね。地面と足の間にシールドを貼ってるから痛くないわ。」

「成程。」

納得した俺は凛の膝にもう一度頭を乗せる。

「無理はダメよ。」

「わかってる。アレはやっぱ封印だ。」

「そうね。」

凛は俺の頭を撫でる。抵抗する気にはならなかった。その後俺たちはドワーフの作業をのんびりと眺めていた。

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