元の世界に戻るは簡単じゃないらしい。
感知に引っかかったのは半日前。
朝の5時ごろだった。
このスピードなら2時間後には会敵だ。
俺は直ぐに戦闘場所に移動する。
足場用にいくつか壁を作る。
空蹴を多用するのは終盤のみ。
序盤は壁を足場に神速を主軸に攻める。
大まかに戦いを二つに分けてそれぞれで攻め方を変えるためだ。
龍にどれだけの知能があるかはわからんが勝つ確率を少しでも上げておきたい。
そんな事を考えながら準備しているとドラゴンの気配がドンドン近づいている事を感知した。
目を閉じて構えを取る。
範囲内まであと3…2…1…
「天翔一閃!」
剣戟が空を飛ぶ。その2秒後地面が揺れるほどの雄叫びが上がる。
「思ったより硬いなぁ…」
現れたのは赤い龍。
胸にはざっくりと傷があるが予想よりは浅い。
「じゃあ第二ラウンドといこうか。」
構えを取る。
龍の咆哮と俺の神速は同時だった。
すれ違い様に行った一閃は大したダメージを与えられていない様だ。
事前に用意した壁を蹴りピンボールの様にスピードを上げる。
龍にも少しずつ傷が増えるが決め手にかかる。
「キリがないなぁ」
俺がぼやくと龍が大きく羽ばたき空に逃げたと思ったら大きく仰け反った。
俺は距離を取る。
「天翔一閃!」
剣戟はブレスを切り裂き龍の口を切り裂く。
苦しむ龍の姿を尻目に地面を蹴りスピードを上げる。このチャンスを逃すわけにはいかない。
「さっさと終わらせて凛の料理が食いたいんだ。そろそろ沈め。」
狙いは首。一閃で何度か傷つけた鱗に刃を当てるイメージ。
「閃紅!!」
刃の赤みが増す。龍が雄叫びを上げるが一切引かずに刃を突き立てる。
「落ちろデカブツ!!!!」
龍の体から力が抜ける。
「やってやったぞー!」
と叫びながら落ちる俺。
着地のこと考えてなかったので空蹴で龍の背に乗ってみる。まぁなるようになるかと考えて遥か空中からの景色を堪能しながらそのまま地面に墜落する直前「シールド!」凛の声が聞こえてシールドが俺と龍を包んだ。
「アンタバカなの!?スキルで怪我は無いかもしれないけど痛いものは痛いって言ってたじゃない!」
「まぁそうなんだけど空蹴は蹴った方向に身体が飛んじまうから着地には使えないし衝撃を殺すことはできないんだよ。有用なスキルにはデメリットもあるって良い例だな。」
俺がそう言うと凛は俺の頭をこつりと叩いた後に抱きしめてきた。
「あんまり心配させないで。」
「お、おう。」
「剣士様。ご無事で何よりです。」
後ろからの声に凛がばっと離れる。
「倒したぞ。」
俺がそう言うと長は深く頭を下げた。
「報酬は如何しましょう。」
「アレが欲しい。」
アレとは勿論、龍の死骸だ。龍はきっと最高級の素材だし肉も美味いはずだ。
「それは勿論差し上げますが他には?」
「うーん。じゃあ宴会してよ。このドラゴンの肉を凛に調理してもらおうぜ。絶対美味い。あとちょっと教えて欲しい事があるから時間作ってくれ。」
俺がそう言うと長は頷いた。
「どんな無茶な事でも応えようと思っていましたが剣士様は無欲なのですね。」
「わりと欲しかないぞ。恩を売っておきたいだけ。エルフとは友好的にいきたいんだ。」
俺はそれだけ言って立ち上がると龍の死骸をアイテムボックスに収容する。中身を確認すると勝手に解体されて見たことのない素材が大量にある事が確認できた。そして目当ての物を見つける。炎龍王の宝玉。やっぱりあった。これがあれば指輪をアップデートできそうだ。
「よし。凱旋だな!」
俺がそう言うと凛と長が頷く。
「そう言えばどうやってここまで来たんだ?」
「ドラゴンが落ち始めたのが村から見えて私が駆け出そうとしたら長さんが風魔法で運んでくれたのよ。」
「へぇ。便利な魔法もあるんだなぁ。」
「魔法ではありません。エルフは精霊の力を借りれます。精霊達は貴方へのお礼として力を貸してくれたのです。」
「精霊か。納得。小説とかでも凄い力を持ってるもんな。お礼を言っといてくれ。」
「わかりました。里まで送ってくれるようです。」
長がそう言うと俺たちの体が浮きあっという間に里まで送られた。
里で盛大に向かい入れられて手荒な歓迎を受けた俺たちは長の家にいた。
「それで聞きたい事とは?」
「私達は元の世界に帰りたいのです。何か方法はありませんでしょうか。」
「世界渡りですか…。お答えしますがあるけどありません。」
なぞなぞかよ…。
「それはどういう意味でしょうか。」
「世界渡りは2種類あります。こちらの世界に呼ぶ魔法。違う世界に送る方法。ですが送る方法は不確実です。送った先が貴方達の世界である保証はありませんし確認する方法もありません。送る世界を固定する方法も確立されておりません。ですのでそう言う魔法はあるが確実な方法はありません。」
沈黙が落ちる。凛も黙ってしまった。
「エルフは魔法に長けているんだよな?」
「長けているというのは語弊があります。私達は長生き故に他の生物よりも魔法を扱えるのです。」
「なら頼みがある。俺たちの為に送る魔法の研究をして欲しい。勿論無理でも文句は言わない。」
「分かりました。エルフの威信にかけて研究致しましょう。」
「頼む。」
こうして初めて元の世界に戻る足掛かりを俺達は得た。
凛が宴会の準備をしているので俺はアイテム作成の為に部屋にいた。
手元には凛のリングと俺のリング。そして炎龍王の宝玉。早速指輪にこの宝玉を嵌めるために加工を開始した。
宝玉の加工は難易度が高いらしくなかなか苦戦したがなんとか指輪サイズの大きさに2個加工できた。それを指輪に嵌めると指輪が光り宝玉が完全に密着した。
改めて指輪を鑑定する。
———
絆の指輪
炎無効
物理防御耐性A
魔法耐性A
不壊属性
装備可能者:剣崎奏、速水凛
———
いいね。一級品だ。
国宝級だろこれ。
俺は満足して増えたスキルがないか確認するとスキルが増えていた。
————
オートスキル
・ドラゴンスレイヤー
高位の龍を討伐したものの魂に刻まれた証。龍への攻撃時に威力5倍。
・焔裂き
炎を切る事が出来る。龍のブレスも有効。
—————
どちらも有用なスキルだ。
焔裂きは飛翔一閃とは違い居合を必要としないので納刀の手間も省けるし威力5倍があれば龍に一閃が有効になるかもしれない。
さらにこの指輪だ。炎無効があれば炎の中に飛び込みながら相手も切り裂けるかも知れない。
俺がそんな事を考えていると凛が部屋に来た。
いつのまにかかなりの時間を使っていたらしい。
「お疲れ様。」
「あぁ。凛もお疲れ。」
俺は指輪を手に乗せて差し出す。凛は指輪をじっと見つめて左手を差し出してくる。
「つけて」
「お、おう。」
俺は左手を取り薬指に指輪を通す。
「綺麗ね…。」
凛は嬉しそうに指輪を見ている。お前の方が綺麗だとは流石に言えなかった。
その後の宴会はとても楽しかった。
エルフの里の果物はとても美味いし凛が料理したドラゴンの肉は最高だった。間違いなくA5ランクを超えていた。
翌朝名残惜しい別れになったがまた会う事を約束して俺達は別れた。
「長がくれたイヤリングとても綺麗ね。」
俺達の左耳には緑の宝石がついたイヤリングがついている。これには通話機能が付いていて宝石には風の精霊の加護があるらしい。
「似合ってるよ。」
「ありがとう。」
俺達は腕を組みながらゆっくりと歩いた。
これから馬を迎えに行き新たな旅路に出る。
この先にもきっと多くの出会いがあるだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます