エルフの村は意外とフレンドリー
「森は虫が多くて嫌になるわね。」
「まぁな。だがこの先にエルフの村があるらしい。エルフは長生きで知識も蓄えてるらしい。もしかしたら元の世界に帰る方法もあるかもしれない。」
「可能性は追うべきよね。」
「あぁ。」
俺たちがこうして森を歩くことになったのは一週間前に遡る。
「エルフ?」
「はい。友好的な村ですので貴方達の助けにもなるかと。」
ここは何回目かになる魔改造した村の中。
村長にお礼として一泊させてもらっていた。
「でも森となるとあの子は連れていけないわ。」
凛が心配しているのは勿論馬の事だ。
街を出てあれから一月。
馬も今となっては家族の一員だ。愛着があり置いていくのは忍びない。
「馬は村で預かりましょう。恩人方の相棒ですから大事に世話をします。」
村長の一言に親愛の情を感じた俺たちは馬を預けて村を出た。
「友好的なエルフか…」
「なにか心配事?」
「いやエルフは人間を毛嫌いしてる話が多いからな。大体一悶着あってなんだかんだ信頼を勝ち取るものだと思ってた。」
「なるほどね。私はあまり小説とか読まないからわからないわ。」
「確かに興味なさそうだもんな。」
「えぇ。他に調べることもたくさんあったし…」
「調べること?」
「なんでもないわ。」
「そうか。」
とそんな事を話しているとガサっと上から音がして誰かが目の前に落ちて来た。
俺は咄嗟に凛を庇い前に出る。
「よく来たわね!人間!」
俺は一瞬ポカンと相手を見てしまう。
長い耳。綺麗な長い髪。
イメージ通りのエルフの女性だった。
「私はフール。アンタ達は?」
「奏だ。」
「凛です。」
「奏に凛ね!よろしく!村まで案内するわ!」
「ありがとう。よろしく。フール。」
凛が手を差し出すとフールはあぁ!と手を合わせて凛の手を握った。とりあえずコミュ力お化けに任せようと俺は二人の後に続いた。
「人間のお客さんは久々だよ。でも予言の剣士が本当に現れるとわね。」
「予言の剣士?」
凛が聞き返すとフールが頷き俺を見た。
「エルフの長は代々予言の魔法を使うの。そして今からいうのが予言の一節。『魔王の力強まる時、異世界より戦士現れる。その中の一人。最強の剣士が黒髪の女神を引き連れ村に現れる。そして同胞を救うだろう。』ね?奏の事だと思わない?」
「確かに。」
凛が頷く。
「いや黒髪の女神は認めるが俺は最強じゃ無いぞ?そういうのは他のやつに任せてる。」
俺がそう言うとフールが楽しそうに笑う。
「隠さなくて良いよ。君一人で国1つ落とせる力がある。遥か遠くの国に現れた力持つものの中でもトップクラスだよ。全員が剣て訳じゃないだろ?ならおそらく君が最強の剣士だね。」
俺は黙る。この一ヶ月で増えたスキルを考えれば確かに不可能ではない。
「それに凛もやばいね。君たちの相性は抜群だ。最強の矛と最高の盾のセットなんて勝ち目がないよ。どちらかと言うと私は凛の方が敵に回したくないね。愛という魔法は本当に貫くことはできないからね。」
「フール!?」
凛が顔を真っ赤にしているが俺は逆に冷静になっていた。
「予言か。恐ろしい魔法だな。俺たちは会ったばかりだそこまで見透かされてるのは恐ろしい事だぞ。」
「ふふ…。さぁ着いたよ!ここがエルフの里さ!歓迎するよ!予言の剣士と女神様!」
俺たちは目の前に広がる光景に流石に圧倒されてしまった。
「お待ちしておりました。剣士様、女神様。私達は貴方達を歓迎します。」
エルフの長の家の中。
俺達は本当に丁重に扱われていた。
「有難うございます。ですが理由があると見ました。お話いただけますか。」
「はい。女神様。私達はあなた方の助力を得たいのです。エルフの里は現在未曾有の危機に襲われております。どうか助力を頂けないでしょうか?」
凛がチラリとこちらを見るので俺は頷く。
「分かりました。喜んで力を貸しましょう。詳しい話をお聞かせ願えますか?」
凛がそういうと長は頷いた。
「あと2日後です。魔王から力を得た龍がエルフの里を焼き払います。その後龍は通る場所を全て火の海に変えて城に向かいます。そこで大きな戦いが起こる。あなた方にその未来を変えて欲しいのです。」
「未来は未確定という事か。」
「そうです。もし貴方達の助力を得られなければそうなります。」
「2日か…。」
「はい。」
「わかった。凛。」
「今回はお留守番ね。わかったわ。私はここを守るから思いっきりぶっ飛ばして来なさい。」
「あぁ。」
俺は頷くと立ち上がる。
「剣士様?」
「2日というアドバンテージがあるんだからやれる事はやっておきたい。俺は今から戦いの場を整えてくる。龍はどこから来る。」
「西から。」
「分かった。」
俺は早々に動き出した。
神速で西に飛び出した俺は森に被害が出ない場所で巨大な柵を作る。要は目印だ。炎を防ぐ壁にもなる。出来れば森には被害を出したくない。そんな事を考えていると森がシールドで包まれた。巨大なシールドは凛の成長を物語っている。この安心感は有難い。
俺は決戦前に今回使えそうなスキルを確認する。
———
・飛翔一閃
居合からの神速の一閃は風を切り空を絶つ。空を飛ぶ神速の斬撃。
・空蹴り
空気を足場に移動できる
・神速
間合いを詰める高速移動
・閃紅
赤き炎が宿る剣が斬られたものの肉を焼く。持続ダメージあり。
———
これらが主力として使えそうだ。
神速は空中戦ではコントロールが難しいが空蹴と組み合わせることにより高速戦闘が可能になる。先ずは先手で飛翔一閃を使うのもありかもしれない。
俺はそんな事を考えながら気配察知を行う。
現在の気配察知はAまで上がっており半径10kmまで感知可能だ。
現状はまだ姿は見えていない。俺は一度森の端まで戻り家をアイテムボックスから出した。
「剣士様は大丈夫でしょうか。」
長の言葉に私は頷く。
「大丈夫よ。奏は間違いなく最強だから。」
「信頼してるんだね。凛は。」
フールの言葉に私は頷く。
「私が小さい頃から信頼しているのは奏だけよ。親に恵まれなかった私を救った私のヒーロー。誰がなんと言おうと奏だけがヒーローなの。だから私は私にできる事を全うする。彼の信頼に応える事が私の愛を伝える方法だから」
目を瞑ればあの日の光景が鮮明に浮かぶ。
「誰もお前を選ばないなら俺がお前を選ぶ。大人になっても、爺ちゃん婆ちゃんになっても死ぬまで楽しく遊ぼうぜ。」
そう言って私の心を射止めた少年の顔が浮かぶ。本人が忘れてるのは腹立たしいしあの下らない噂を信じた事も腹立たしいけれどやっぱり彼が好きだし燃える恋愛感情は一向に消えないどころか強くなる一方だ。
「勝つわよ。私のヒーローが火を吐くトカゲ程度に負けるわけないんだから。」
私がそう言うとフールが笑う。
「いいね。君たちの事がすっかり好きになっちゃったよ。」
私は西を見る。私のヒーローの勝利を私は確信していた。
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