街から出るのも一苦労

ほぼ空になったアイテムボックスが充実するほど買い物をした俺たちは残金を確認する。

7万程手元には残っている。

これも全て凛がうまいこと値切ったおかげだ。

「思ったより残せたわね。薬は作れそう?」

「あぁ。何とかなりそう。素材は旅しながら探すって感じかな。」

「そっ。これも読んでおきなさい。」

そう言って凛が差し出したのは分厚い本だ。

「薬草と毒草か…。」

「えぇ。毒も使いようによっては薬になると聞いた事があるわ。アンタは私に頼りっきりと思ってるみたいだけど逆よ。アンタ次第でこの生活は簡単に傾く。」

凛は真面目な顔で俺を見てくる。

「そうか。そうだな。しっかり覚えるよ。」

「素直でよろしい。じゃあさっそく読みましょう。」

凛がそう言い俺の横に座った。

俺と凛はそれから時間をかけて本を読み込んでいった。


「お腹が空いたわね。」

「そうだな。まだ三分の一しか読んでないけど真面目に読んでいたから時間が経つのが早い。」

「あっ」

「ん?」

「ステータスを見て。スキルが増えてるわ。」

俺はステータスを確認する。

——

・鑑定C

知識のあるものを鑑定できる。

——


「便利ね。」

「そうだな。全部読めば暗記したのと一緒ってことか。」

「毎日少しずつでも読みましょう。とりあえずご飯ね。」

俺は頷き二人で部屋を出た。

街は夜でも賑やかだ。

俺達は適当な店に入って食事をした。

「凛の料理の方がうまいなぁ。」

「これから何度でも食べれるわよ。私達は一蓮托生なんだから。せっかく街にいるんだからそんなこと言わずに楽しみましょう。」

俺は手を引かれて展望台に向かった。

「綺麗ね。」

凛はぼんやりと夜景を眺めている。

「なぁ…。」

「何よ。」

「何で俺について来てくれたんだ?」

「バカね。私がアンタを選んだんじゃなくてアンタが私を選んだからよ。」

「俺が?」

全然覚えていない。

「忘れてるなら良いわ。思い出すまで教えてあげない。」

そう言った凛は夜景に照らされて綺麗だと思った。


宿に戻った俺たちは明日の朝に出発と決めて準備を開始した。

「簡単に脱出できる気がしないな。」

「ルーイね。」

「あぁ。確かに俺のアイテム作成は商人から見たら逃すわけにいかないだろ。それにアイテムボックスの事まで見抜かれてる。」

「なるようにしかならないわ。今日は休みましょう。ちゃんと守ってね。旦那様。」

「わかってる。もしもの時は剣士でも1級品だってわからせてやる。」

俺が紅月をかかげると凛はふふっと笑う。

「話し合いになる時は私がやるわ。シールドは常に発動しておくから気負わずに行きましょう。おやすみなさい。」

「あぁ。おやすみ。」

電気を消すと寝息が聞こえてくる。

俺も明日に備えて早めに就寝した。


時刻は朝6時頃。

俺達は宿に断りを入れて予約を取り消してチェックアウトをした。馬車に乗り込み宿をたつ。

門に向かうとなぜかそこにはルーイが立っていた。

「あらルーイさん。ずいぶん早起きですね。」

「ええ。商人は目ざとく耳早いものですから。貴方に興味はありません。私は奏さんに用がある。」

値踏みする目が俺に向けられて凛が口を開く前に俺は凛にアイコンタクトを送るとやれやれと凛は黙ってくれた。

「聞きましょう。」

「貴方は誰よりも稼ぐ商人になれる資質がある。凛さんではなく私と手を組みましょう。凛さんのように貴方を利用する訳ではありません。私は貴方に損はさせませんよ。」

ルーイがそう言うと凛が手を握ってくる。俺は強く握り返した。

「断る。」

「何故ですか?」

「凛が俺を利用してるだって?違うな。俺は凛がいるから常に万全なんだ。お前は何もわかっていない。そんなやつと手を組むわけないだろ。商人なら大局を見るべきだったな。お前は落第だよ。」

俺は鼻で笑ってやった。

「夫婦である事を偽ってるような関係性なのにそんな言葉が出てくるとは思いませんでした。凛さんの有用性など見た目ぐらいしかないと思いますがね。」

「見た目?アホか。こいつの一番良いところはそんな事じゃねぇ。凛の一番良いところは口の悪さに隠して分かりづらい誰よりも優しい思いやりだ。コイツはいつだって強きだから勘違いされがちだが常に一番誰もが幸せになる方法を探してる。村を守る時だってコイツは村人がこれから幸せに生活できるように俺を使う。回復薬の値段設定だってそうだ。コイツは小さい子供には裏で安く売ってる。薬の知識を俺に教えたのもそうだ。今後必要だとコイツが判断した。凛が俺を一番上手く使える。だから俺は全面的に信頼している。」

俺がそう言うとルーイはじっと凛を見る。

「ふむ。金の卵の前に私の目は曇っていたようですね。」

「あぁ。その様だな。その無様が落第の証だ馬鹿野郎。」

俺がそう言うとルーイは道を開けた。

「次に会うことがあればまたお話をしましょう。」

「次があるかはお前次第だ。」

俺はゆっくりと馬を進めて街を出た。

「奏…」

「なんだよ。」

「やっぱり昔から何も変わってないわ。」

「いつの事かわからん。」

「バカ」

「すまん。」

「本当にバカね」

凛はそう言うと俺に体重かけてくる。

今はその重さが心地よかった。

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