異世界でも金が必要らしい

「いらっしゃいませ。当店では回復薬とアクセサリーを販売しております。お一ついかがですか。」

凛の丁寧な対応で商品は一気に売れていく。

俺はせかせかと馬車の2台でアイテム作成を続けていた。何故こんなことになっているのか。

それは二日前に遡る。


「この街に入る為には身分証と金が必要だ。」

初めての村から一ヶ月。初めてでかい街に辿り着いたが門で足止めされてしまった。

今までの道程は見つけた村を手当たり次第に魔改造して対価は物で貰っていたため勿論、無一文だ。ここをスルーする事を考えたがコミュ力お化けの凛は諦めなかった。

「私達は駆け出しの行商人で今は旅をしております。大きな街は初めてなので先ずは身分証を作りたいのですが可能でしょう。」

「なるほど。事情は分かった。夫婦の行商人とは珍しい。先ずは商業ギルドに案内しよう。そこで金を借り、街を出る際に返却するといい。」

「有難うございます。」

といった流れであれよあれよと進み今はこうして露天を開いていた。

いや行商人でもないし夫婦でもないんだが取り敢えず夫婦という設定は使い勝手もいいと気づいた俺たちは物理耐性、魔法耐性を施した指輪をお互いの左手の薬指にはめていた。

俺は素材が少なくなってきた事を確認して凛に合図を送ると凛も頷いた。

「本日は売り切れです。また後日露天を出しますのでその際はよろしくお願いします。」

凛がそう言うと並んでいた人たちは残念そうに去っていった。

俺達はさっさと片付けを済ませて全てアイテムボックスに放り込むと街の宿屋に撤収した。

宿屋に着くと凛がベットに横になった。

「疲れたわね。奏もお疲れ様。」

「あぁ。凛のおかげで大分稼げたと思う。」

「私じゃなくアンタの商品のおかげよ。やっぱり1家に1台奏もんね。ところで今日の売り上げはどうだったの?」

「なんと18万フィールだ。借金返済だな。」

今回の借金は街への入場代として二人で千、身分証代で6千、場所代で3千の1万フィールだったが溜め込んだ素材を全て吐き出した結果余裕で支払えた。この売り上げで宿屋を十日分増やしでも手元には16万残る。

「稼ぐ才能のある旦那がいて私は嬉しいわ。」

「よせやい。俺は接客なんて出来ないし値段設定を上手いことやって売り捌いた嫁さんがいなかったら無理だった。」

俺がそう言うと凛は顔を赤らめた。

「いっそこのまま商売して生きてくのもありよね。どこかで家でも買って武器とアイテムを売るっていうのもいいと思わない?」

「まぁな。今はまだ帰れる方法を見つけたい。

長い旅をしながらになるかもしれないけど。」

俺がそう言うと凛は仕方ないわねと首を振りベットに横になると直ぐに寝息を立てて寝始めた。俺は時間もあるのでスキル確認を始めた。


あれから増えたスキルとしては

————

・品質向上B

アイテム、武器の品質が向上する。

・大量製作

同一アイテムを作成時、素材がアイテムボックス内にあれば一気に作成可能。

・付与B

付与効果が上昇する。付与できる効果はスキルレベル依存。


・気配察知C

敵意があるものが近づいてきた際に1km以内であれば察知可能

・八閃

神速の八連撃。刀を抜いてる時のみ使用可能。

・オート反射

敵対者の攻撃に自動的に反応する。居合時のみ使用可能。

—————


順調に増えている。

アイテム系のスキルは作成や付与を行う回数で手に入る様だ。最初はDだったが今はB。村を魔改造する利益はここにも現れている。

不壊耐性はおそらくもっと上なのだろうが紅月を所持している事に起因するのかもしれない。

俺は隣にいる凛に目を向けた。

先程の発言は正直ビックリした。

俺達は幼馴染で長い時間一緒にいるが恋愛要素なんて何も無い日々を送ってきた。

だが先程の発言はまるで本当に結婚するみたいな言い方じゃないか。まさか俺のことを好きなのか?いやまさか無いな。

俺は見た目がそこまでいいわけじゃ無いしコイツは面食いだ。アイドルとか好きだし。

俺は少し浮かんだ考えを頭を振って消し去る。冷静になった俺はアクセサリー作成に集中し始めた。


「1万フィール。確かにお預かり致しました。」

商業ギルドは今日も盛り上がっている。

返済を終えた俺たちがカウンターを離れると一人の男が近づいてきた。

「返済おめでとうございます。お二方。」

身なりと顔が良すぎる男が俺たちに笑顔を向けてきた。こいつは確か商業ギルドのトップの…

「どうもご丁寧にありがとうございます。ルーイさん。」

そうだルーイだ。なんか胡散臭いやつ。

「いえいえ。お二方ならすぐに用意してくれると思いました。昨日は盛況でしたね奏さん。」

くっ…凛の影に隠れてたのに!

「妻のおかげですよ。」

「ええ。ええ。それもあるでしょう。ですが商人の私の目は誤魔化せませんよ。貴方は高位のアイテムクリエイターですね?そしてアイテムボックス持ちなのではないですか?」

「駆け出しです。本当に。」

「ふむ…」

目線がかち合う。帰りたい。

「ルーイさん。私の旦那を虐めないで頂けますか?」

凛はさっと俺とルーイの間に立った。イケメンすぎる。隠キャの俺だとボロが出かねない。

「これはすいません。貴方達からは濃密な金の匂いがするので思わず踏み込んでしまいました。これからの活躍に期待しますよ。」

ルーイはそう言うとニコッと微笑み踵を返した。凛は俺の腕に自分の腕を回し行くわよと俺の腕を引いて歩き出した。

「おい良いのか?あんなイケメンに冷たくして。」

「バカね。私は確かに面食いだけどそれ以上に一途なの。それにアイツの狙いはアンタよ。必要以上の商売はここではやめときましょう。アンタは目立ちすぎる。」

「お、おう。」

凛は上手いこと話を進めてくれるし助かる。俺は今隣にコイツがいることを感謝した。

俺達は連れ立って街の中央広場にやってきた。

「お金もあるし色々買いましょうか。旅はまだまだ続くし買える時に買っときましょ?アンタのアイテムボックスなら劣化もしないみたいだし先ずは食料ね。」

「肉、魚」

「野菜もよ。子供じゃ無いんだからちゃんと食べてよね。」

「はい。」

色々物色していると薬屋が目に入った。

「凛。」

凛はちらっと薬屋に目をやる。

「そうね。アンタの作成バリエーションを増やす為に一通り購入しましょう。それに知らない土地で病気は怖いもの。私が倒れたらコンビニがない今アンタは草しか食べれないわ。」

「事実でもささる!」

「ふふ。さぁちゃっちゃか買うわよ。そして明日には街を出ましょう。」

「急だな。」

「女の勘よ。」

「お、おう…。」

俺達はその後も慌ただしく買い物をするのだった。

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