紅月二式
「貴様の剣には足りないものがある。」
「足りないものとは?」
「切れ味だ。剣としては完成されている。必要なのは砥ぎだ。」
「成程。それは確かに。手元に砥石はあるんだけどこっちの世界に来てから謎の硬さでうまく砥げないんだよ。」
「不壊属性のせいじゃな。そこでこれじゃ!」
ドン!と出てきたのは黄金の砥石だった。
「アダマンタイトじゃ。この世界で最も硬い鉱石。こいつならお前の武器も砥げるぞ。」
「おぉ!さっそくやってみる!」
「待て待て。先ずは手本を見せてやる。」
「ドワーフの技術を見せてもらえるのか!?」
「勿論じゃ!お前にじっくり俺たちの技術を伝授してやる。」
「やったぜー!」
そうして俺は修行を兼ねた紅月強化の日々が始まった。
まず習ったのは砥ぎの工程だ。
正直俺は得意じゃない。現代では刃を潰すことはあっても砥ぐことは無いからだ。
ドワーフの仕事は実に丁寧だった。
ムラなく均一に。紅月の刃はドンドン光り輝いていく。
「綺麗だ…」
「そうじゃろ?ほらおまえもやってみ。」
「うす!」
俺は怒られながらも徐々に砥ぎに慣れていく。大事な相棒でありこれからも頼る存在だからこそ気持ちを込めて砥ぎ上げた紅月は赤みをまして更に輝いていった。
没頭する事二週間。遂に紅月の研ぎが終わる。
「いい出来じゃな。」
「ありがとうございます!」
「これならあの技無しでも大抵のものは切れるじゃろ。この砥石は選別じゃ。今ここには3つしか無いがお前の為に定期的に作ってやる。無くなったら取りに来い。」
「ありがとうございます!でもいいんすか?貴重なものでは…」
「いいんじゃ。弟子が使うものを用意するのがドワーフの慣わしだからな。」
「ありがとうございます!師匠!」
「ガハハハ!貴様は出来のいい弟子じゃ!いつでも来い!」
「はい!師匠も困ったことがあれば呼んでください!どんな困難でも手を貸します!」
俺が頭を下げて鍛冶場を出ると凛が外で待っていた。
「嬉しそうね。」
「凛!あぁ!見てくれ!紅月二式だ!」
俺が剣を抜いて凛に見せると凛が微笑む。
「とても綺麗ね。」
「そうだろ?こいつでこれからもお前を守るよ!どんな硬い敵が現れても切ってみせる!」
俺の言葉に凛は顔を赤くした。
やばいこれじゃ告白だ。
「私だって守られるだけじゃないわ。私のシールドもアンタを守るから。」
「そっそうだな。いつもありがとう。」
「っ…お互い様ということにしておきましょう。いつも守ってくれてありがと!」
凛はそう言うと照れくさそうに横を向いた。
そんな凛が愛おしく感じこれは本格的に惚れてるなと思ったが勇気のない俺は告白することはできなかった。
ドワーフの国には武器屋以外にもアクセサリー屋がある。俺達は国を出る前に店を冷やかして回っていた。
「どれも素敵ね。アンタもここで店を開いたらどう?」
「そうだな。もし戻る方法がなかった場合はここで暮らすのもいいかもな。師匠もいるし。そんときは…」
「その時は?」
「…いやなんでもない。凛はもし戻れなかったらどんなところに住みたい?」
「バカね。アンタの世話をしなきゃいけないんだからアンタが決めたところよ。」
「世話って…。お前俺は子供じゃ無いんだぞ?」
「家事が壊滅的なアンタが普通の生活できるわけないじゃ無い。」
「ぐっ…言い返せない…」
「掃除もできない。料理もできない。そんなアンタが一人になったら家はぐちゃぐちゃよ?」
「だけど凛。俺は有難いけどやりたいことはないのか?」
「あるわ。でも秘密よ。女性は秘密があったほうが美しくなれるらしいわ。」
「そうか…。」
もう十分綺麗だけどという言葉が出かかるが俺は飲み込む。
「そんな事は置いといて私はアレが欲しいわ。」
凛が指を指した先には包丁が並んでいる。
「アクセサリーじゃなくて包丁でいいの?」
「バカね。アクセサリーなんて生活必需品じゃないもの。お金は有限よ。今欲しいのは一流の作った包丁よ。」
凛はそう言うと俺の手を引き出店までグングンと進んでいった。
「おっ!ドワーフの英雄と若奥さんじゃねぇか。ウチは包丁とナイフ、調理器具しかねぇぞ?」
「こんにちは。まさにそれが欲しいんです。私は料理担当なので。オススメはありますか?」
「そうさな…。オススメはこの金剛石とアダマンタイトを使った包丁とナイフだな。切れ味抜群だ。まな板はアダマンタイトを混ぜたもので不壊属性が付与されてる。鍋類は鉄製だが軽量魔法をかけてるから女性でも扱えると思うぞ。」
「素敵ですね。おいくらですか?」
「金はいらねぇぞ?」
「えっ?」
「この材料は全部アンタの旦那が用意したものだ。今回に限りタダにしてやる。」
「いいんですか?」
「あぁ。次回以降は金をもらうけどな。」
そう言って豪快にドワーフは笑う。
「分かりました。素敵な物をありがとうございます。贔屓にさせてもらいますね。」
凛はお礼をいい俺に振り向く。
俺も礼を言いアイテムボックスに品物を入れるのだった。
「やっぱりアンタは凄いわね。」
並んで歩いていると凛がそんなことを言う。
「今回は私利私欲しか無かったから素直に喜べないなぁ。罪悪感がやばい。」
俺がそう言うと凛がくすりと笑う。
「結果的に誰かを見捨てずに手を差し伸べるアンタは昔から変わってないわ。」
「自分の為にやったことがたまたま人助けになってるだけだから…」
「そんなアンタだからエルフやらドワーフやらと仲良くなれたんでしょ。卑下するのはやめなさい。」
「お、おう…。」
「アンタは自分を過小評価しすぎよね。まぁいいけど。」
凛はそう言うと俺の手を握る。俺はどきりとしてしまう。
「胸張りなさい。一応アンタは私の夫なんだからね。」
「そうだな…」
本当の意味で凛の夫になることが出来たらきっと幸せなんだろうなと俺は思った。
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