第十七節 歴史が動いた日・後編(メノミニ視点)
空の果てから、巨大な竜が降りて来る。
見てるだけで鳥肌が立った。目にするだけで眼球がじんわり痛い錯覚があって、羽撃く音を耳にするだけで薄っすらと身体が奮えて、同じ空間に存在しているだけで空気の肌触りが気持ち悪く、なんでかぶわっと鳥肌が立っちゃう。
黒い体に白っぽい青の線がいくつも入った、四脚四翼四頭四尾の、100mを超える竜。あれが、きっと。
「魔天チニル。魔人態と巨竜態の2つの姿を持つ魔族だ。魔人態では外が黒、内が白水色の『流星』の
「アルダはなんでそんなこと知ってんのよ」
「いずれ殺し合う相手だ。我は入学前から入念な下調べを繰り返していた」
なんでもありね、コイツ。
まあアルダだからしょうがないか。
それに、情報は助かる。
どう戦うか、さっぱり思い付かなかったもの。
フリジアとティウィは……驚いて無いってことは、先にこの話も聞いてたのかしら。
「来るぞ」
え? あ。
竜が光った。
空から、青白いものが降ってくる。
あれは……流れ星?
あっ。
魔天チニルが『流星』の
「えっ、ちょっ」
轟音。凄い振動。そして、街から悲鳴。
何か凄いことが起こったのは分かった。
でも、それ以外は全然分からなかった。
少し遅れて理解が及ぶ。
薄っすらと、半透明の結界が見える。
アレで流星を受け止めた?
ああ。アレ、アタシが作ったやつだ。
地脈から星の魔力を吸って溜め込んで、広範囲を守る結界を展開できる結界装置。
そういや5歳の時に作ったんだっけアレ。
今学園にあったんだアレ。
ん、あれ?
あの装置って攻撃の一時間前くらいに起動させとかないと魔力が溜まらないから使えな……ああ、アルダの未来予知うんたらってそれの話!
魔天とか来るぞーってアルダが言って回ってたから間に合ったって話?
アタシの作った道具をアタシより使いこなしてんじゃんアルダ。やるぅ。
「これが、アルダ様のおっしゃられていた、魔天チニルの『
うわ!
従姉妹だから分かる!
フリジア、卑しい!
解説にかこつけて隙を見て『ボクはアルダ様からこういう話を聞いてるけど君はどうなの?』ってマウント取りに来てる!
さっきのアルダとのやり取りでアタシに嫉妬したから地味な嫌がらせ仕掛けて来てる!
こいつ!
許せん!
まあ従姉妹だから許したげる。
たまにはね。
次は無いわよ。
「主様。凄まじい衝撃でした。もう一度流星が落ちて来たら、今度こそ耐えられないのではないのでしょうか……オレはどうしたら……」
え、ティウィってこんなメンタル弱かったの?
「狼狽えるなティウィ。ディプル学園の結界は強靭だ。弱体化している魔天の流星ごときでは、一発二発で破られるように作られてはいない。そうだろう、メノミニ」
こ、こいつ。
アタシの作品だって知ってて褒めてんだ。
ヤバ。
なんかにやけちゃう。
「ま、まあね。威力があれなら五発までは確実に耐えるはずよ」
聖王結界があるものね。
この国の中だと魔族は弱体化するってやつ。
魔天もその例外じゃないわ。
だから結界もそれなりには耐えられるはず。
……弱体化してこれなんだぁ。
「何回も撃たれたら危険ということじゃないですか! 学園の周りには王都もあります! 学園に着弾したら、王都ごとひっくり返りますよ! そうしたら罪の無い市民が大勢っ……」
「ティウィ」
「……は、はい」
「あの図体がデカいだけのトカゲが、次を撃てると思うか? これから我が奴の前に赴くというのに、そんな余裕があると思うか?」
「……! そ、そうですね! 主様が赴けば、いかに魔天と言えども……!」
「ティウィ、ついて来い。フリジア、先行しているアイカナに合図だ。メノミニ、これから学園の有志を引き連れて戦闘に入る。行けるな?」
「はい、アルダ様」
「アタシこう見えて魔獣とかとは結構戦ったことあるのよ。大船に乗ったつもりでいなさい!」
ドキドキしてきた。
よし、頑張ろう。
でもねティウィ。ティウィ。
アンタはもうちょっとしっかりしなさいよ。
本当にね。
あとフリジア。仲間になると分かるけど、こやつめちゃくちゃいいポジション取ってるわね。
いいなぁ。
アタシも知的な参謀やりたい。
できないけど。
王都の北の、森と草原の狭間の荒野。
学園を守っていた結界の無い場所。
流星を遮るものがない青空が、今にも落ちて来そうに思えて、アタシの体は一瞬ぶるっと震えた。
頑丈な天井や結界が頭上に無いことが怖いだなんて、初めての気持ち。
巨大な竜が降りて来る。
降りて来ただけで、ずしんと地面が揺れた。
すっごい。
頭では分かってた。
アタシだって
でも、聖王アルダと魔天チニルは、本当に自然の一部みたいに強力で、強大で、強靭で……自然災害そのものが圧縮されたみたいな、濃くて力強い存在感がある。
この2人だけが特別なのを、たぶん、敵も味方も全員が分かってる、そんな感じがする。
敵の方を見る。
魔天チニルが立っている。
その後ろの方に、魔力が強そうなのが……3体?
あれが魔将なのかしら。
後は、魔族っぽいのが100くらいと、獣っぽいのが1000くらい……こっちは大分弱そう。
振り返って、仲間を見る。
アルダが居る。
その後ろにティウィとフリジア。
そのもっと後ろに、学園の学生が80人くらい……ほとんどが一年生?
それと、一年生の父兄っぽい人達が30人? くらいかな、たぶん。
薄々気付いてたけど、知らなかった。
アルダの奴、一声掛けたら、もうこんな人数が集まるくらい人望があったんだ。
人望? カリスマの方が正しいかしら。
まあいっか。
戦力は……たぶん、人間の側の方がずっと弱い。普通にぶつかったらアルダ以外は負けちゃいそう。そんな気がするわ。
「名乗れ、魔天」
あ。アルダが呼びかけた。
魔天が興味深そうにアルダを見てる。
『魔皇様の一なる刃。流星魔天、チニル』
「アルダ・ヴォラピュク。貴様を滅ぼす者だ」
おおー。名乗り合ってる。なんかカッコいい。
もしかして、このまま大将一騎打ちする流れ? アルダなら、負けはしないだろうけど……大丈夫かしら……?
『愚かな小さき命よ。其方の願いは叶わぬ』
「魔皇の使い走りが
あっ、アルダが人差し指一本立てた。
えっ、何?
「貴様を一撃で討ち滅ぼす」
『……ほう。くっ、くくくっ』
本当に何!?
うわっ、魔天チニルがめーっちゃめっちゃ馬鹿にしてる感じで笑ってる!
腹立つわね!
『受けよう、その挑発。そして思い知るがよい。其方が人間という矮小な生命であることを。その矮小さでは魔皇様どころか、私の命を脅かすことすら不可能であることを……教えてやる』
なんですってぇ……!
身体がデカいからっていい気になって!
うちのアルダを甘く見ないでよね!
アルダはいつだって皆の期待の3倍くらい高いところを悠々跳んでく男なのよ!
そこがカッコ良……まあまあ悪くない感じに見える男なのよ!
負けて吠え面かきなさい、魔天!
『
! 召喚魔法?
多くの白銀と、少しの赤白青で彩られた戦車が……ん? あれ? 多くの白銀と少しの赤白青?
あっ。
これ、
「アルダ! 一旦撤退しましょう! 急いで!」
「下がっていろ」
「あれは同じ綴りの存在を別の読み方してるだけで、
「だからどうした」
「聖王の魔法は魔皇によく効くけど、魔皇が邪法で設計したあの
ざわっ、と、人間側の人生に動揺が走る。
無理もないわ。
こんな、こんなの、ズルでしょ!
『知っていたか。傲慢に思い上がった聖王の末裔だけではなく、少しは物を知る者が居たようだな。それに加えて……バキア』
「はいはーい! バキア、封じます!」
魔将? らしき女の子が前に出て来て、両手で口を塞ぐ仕草をして……え、何?
『これで貴様ら人間は、一切の魔法が使えん。大勢は決した。いや、勝敗すらも決したと言っていいであろうな』
えっ? あっ、本当だ。魔法が使えない!?
アタシだけじゃない。
後ろを見る限り、アタシ以外も全員魔法が使えなくなってる。
たった1人で、広域に干渉して、対象人数無制限で魔法を封じる能力を持った魔将……!?
反則ってレベルじゃなくない!?
『さて。私を一撃で討ち滅ぼす、だったか? いいだろう。好きに攻撃するがいい。私の前には
こ……コイツ!
性格が悪い!
こんなデカい身体してるくせに、やることが超絶粘着質でいやらしい! 何コイツ!?
普通に正々堂々戦っても、この巨体で攻撃に耐えて流星落としてるだけで強いはずなのに!
「アンタ、恥ずかしくないの? 正々堂々戦うとかそういう考え方は無いの? こんな、アルダ対策をギチギチに詰めた戦いなんて……」
『ほう。人間の貴様は、手加減してほしいと。そうでないと魔族には勝てないと。そう言うのだな? 我々としては、事実の再確認に過ぎないが、人間もそれを認めるか』
「なぁんですってぇ……!」
アタシはアタシを煽った奴を許さないわよ! 許さないけど! 魔法使えないからこのもやしみたいな腕で殴るしかないっ……!
たぶん効かない!
悔しい!
「下がっていろ、メノミニ。フリジア、メノミニがカッとなって前に出すぎないよう、抑えておけ」
「え、アルダ……?」
「はい、アルダ様。ここからはお任せします」
「ああ。魔族の手加減など我には必要無い。ただ……」
その時。
「……我が手加減する必要は、無くなったな」
アタシが聞いたアルダの声は、アタシがその声がアルダの声だと分からないくらい、重くて、底冷えしていて、なんだか、怖かった。
訳が分からないくらい、『本気』の声だった。
「天に煌く無双成る星。月、其は月。闇夜に人に寄り添う隣人。気高く輝く道標。この身は果てを目指す者。この身は楽園を目指す芦。月光浴びて考える、ただただ夢想を繰り返す芦」
……詠唱!?
戸惑ったのはアタシだけじゃない。
アタシを抑えてたフリジアも。
切り込みの準備をしていたティウィも。
他の見ていた皆も。
皆ビックリしているように見える。
だって、アルダはいつも、詠唱なんてしてなかったから。
詠唱は発動する魔法の威力・形質・精度などにプラスの補正をかけるためにするもの。
そんなものを使わなくても、アルダは膨大な魔力があるから、無詠唱の魔法だけで誰よりも強い威力の魔法が撃てるはず。
そんなアルダが、誰よりも強力な魔法を人に当てることを自制して、誰も傷付けないように決闘をしてきたからこそ、皆アルダを尊敬してた。
そんなアルダが、詠唱?
『無駄なことを』
「新月に花を。三日月に鳥を。半月に風。十五の夜に月は揃いて、待ち人来たりし満月の夜、我の膝にはツキウサギ。月を仰いで未来を語る」
『聖王の魔法が効かぬ
「輝きを手に。煌めきを芦に。明るきは瞳。光は口へ。月は心臓と共に在る。常に寄り添い共に在る。我が心からの請願に応えよ。我は月と生きる者。月に生命を捧げし者。月に未来を魅せる者。生まれし時から死する時まで、月に全てを見せる者」
『何の意味も無かろうに』
「月よ。友足る我と悪を討て。
詠唱に合わせて月の光が蠢いて、アルダの前に魔法陣を形作っていく。
空気が違う。
気配が違う。
雰囲気が違う。
何。何これ。
アルダがいつもと違う。
見ているだけで胸の奥が跳ねる。
たぶん、アタシと一緒に見てる人間みんなそう思ってる。
アルダを見てるだけで、落ち着かない。
彼に、心を引きずられるような気持ちが湧く。
あの巨大な竜は、今のアルダを見て、何も感じないの? なんで? なぜ?
もうこんなにも、終わりそうなのに。
「解き放たれよ───
どう表現したらいいのか、分からない。
そんな光だった。
魔法陣から放たれた過去最大の大きさの光が戦車も飲み込んで直進したと思ったら、魔天チニルの前で止まって、一瞬の溜めの後、爆発して……光の爆発に飲み込まれた戦車も魔天チニルも、跡形も無く消え去っていた。
魔法が使えないはずなのに魔法を使って。
聖王の魔法が効かないはずの戦車が、聖王の魔法で消し飛ばされて。
倒せるはずの無い魔天が、一撃で倒された。
夢を見てるみたいな心持ちだった。
アタシ達にとってはいい夢。
魔族にとっては悪夢。
敵も味方も、現実感が無くて……だけど、魔天チニルが一撃で倒されたことは、現実だった。
「え」
魔族の誰かが、声を漏らした。
「チニル様?」
魔族の誰かが、声を漏らした。
「う……嘘ですよね? 冗談にしては度が過ぎてますよ、チニル様。姿を隠していらっしゃってるだけですよね? 姿を現してください、ほら、早く」
魔族の誰かが、声を漏らした。
「チニル様が……一撃で、死んだ?」
魔族の誰かが、声を漏らした。
アルダが眼前の魔法陣の残滓を手で払い、黒金の前髪をかき上げて、口を開く。
かっこよ。
「教えてやろう、死した魔天。貴様が魔天であろうと関係無い。貴様が聖王の天敵を呼び出そうと関係無い。貴様が魔法を封じようと関係無い。……我が魔皇を討つために存在する以上、貴様は前座であり、我はそれを一撃で倒して当然なのだ。小細工を弄したところで、その結論は変わりはしない」
む、無茶苦茶なこと言ってるわ!
でも目の前で実現されたから『本当だねえ』って頷くしかない!
なんてことなの!
本当無茶苦茶。
無茶苦茶過ぎて笑えてくるわ。
でも、なんだか……アルダの無茶苦茶に振り回されてるの、ちょっと楽しい気持ちもあるかも。
「どうだ、メノミニ」
え。アタシ?
「貴様が死ぬ必要などどこにも無かろう」
「───」
「貴様が自分の命と引き換えにしてでも倒さなければならない敵など、どこにも存在しないのだ。我が貴様の隣に在る限りな」
……バカ。
アンタ、本当にバカ!
あーそうよね!
アンタが居たら、アタシが命を捨ててまでなんか倒す必要なんか無さそうだわね!
はいはい分かりました!
もう自分の命を粗末にしたりしません!
そうすりゃいいんでしょ!
バカ!
『死なないでほしい』って一言アタシに言えばそれで済むのに、ややこしすぎんのよ! バカ!
……そんなアンタは、嫌いじゃないけど。
「さあ、我に従う人間どもよ。我に逆らう魔族どもよ。決着を見たか? これは終わりではない。始まりに過ぎん。我は魔天チニルの首級をもってして、この歪んだ世に狼煙を上げよう」
アルダが、謳うように言葉を連ねる。
アルダが動くと空気が変わる。流れが変わる。
まるで、その場が演劇の一幕みたいになる。
「聞け、全ての人間よ。我は新たな伝説の幕開けを作る。我が下へ集え。勇気を奮え。強さを極めろ。決して臆するな。前へ進め。魔族を討て。そして……伝説となれ。世界で最も新しき伝説に!」
アルダの身振りと聖光と共に振る舞われる言葉の1つ1つが、みんなに染みて、みんなの心を強くして、みんなをどんどん強くしていく。
ああ。なるほど。これがそうなのね。
これが、英雄譚ってやつなのかしら。
かっこいいじゃん、男の子。
「勇者と共に世界を救った、伝説の一部となれ! 我が手足どもよ! 自らの命も惜しまず、どこかの誰かを守るため、勇気をもって此処に集った貴様らには、伝説として語り継がれる資格がある!」
アルダの言葉には力がある。
心に響くような。
無条件で信じられるような。
そんな不思議な力が。
「強かろうが弱かろうが関係無い! アルダ・ヴォラピュクの名において認める! 今此処で戦う者達よ! 貴様らは英雄だ! 力ではなく勇気によって認められる英雄だ! 輝け! この場で! 誰よりも!」
魔族も必死に抵抗してるように見える。
でもこりゃダメだわ。
こっちが押されてても、アルダが声を上げれば、それだけで押し返し始める。
こっちが押してる時、アルダが声を上げれば、もっと押していく。
あっちのリーダーとこっちのリーダーが直接対決して、あっちのリーダーが死んだ時点で、たぶんこれもう決着付いてるんだわ。
あら?
いつの間にか魔封じの効果も消えてない。
どっかで解除条件を満たしたの?
あるいは……成立条件が失われた?
発動者はまだ生きてるし、魔法学の基本から考えると、後者の方が可能性が高い……かな?
「メノミニ。前に出るな。貴様の得意の土魔法で適宜戦場に壁を作り、魔族の遠距離攻撃から人間を守れ。我はこの戦いで死人を出すつもりはない」
「ふふん。気遣いは無用よ。アタシだってガンガン前に出て魔将の1人や2人……」
「前に出るな。命令だ」
「はい……」
くっ……気を使われてる……!
なんで?
腕がもやしだから?
足がもやしだから?
身長140cm無いから?
塔を上っただけで息切らせてたから?
子供扱いすんじゃないわよアルダ……!
またあんたのこと嫌いになるわよ……!
「ティウィ! 魔族右翼に切り込め!」
「はい!」
アルダの指示で動くティウィが強い。
ティウィが切り込むと魔族の陣形がするりと崩れる。ティウィを止められるのは魔将しか居ないけど、無理に戦闘に参加せずに後ろから戦場を見てるアルダが指示を出してるから、魔将が居ないところをティウィがどんどん崩して行ってる。
すご。
「フリジア! 敵魔将の1人、預言魔将ディフェの疑似未来予知は水の魔力が周囲に多いと精度が落ちる! あれは初代聖王と戦った預言魔将の子孫だ! 味方への
「はい。了解致しましたわ」
アルダの指示で動くフリジアが強い。
っていうか。
アルダ、時々フリジアに嘘の指示出してるわね。嘘の指示と並行してハンドサインでフリジアに本当の指示を出してる。
アルダとフリジアどっちとも知り合いだから、何となく分かる。
「フリジア、攻撃強化!」
「はい。我が名に依り霧よ助けよ、
魔族はなまじ知性があるから、アルダがフリジアに出した指示を聞いてそれに反応して、それが嘘の指示だったせいで裏をかかれて、どんどん数を減らしてるわね。
アルダがフリジアに嘘の指示を出してるから、アルダがティウィに出してる戦術まで嘘じゃないかって疑われ始めてる。わぁ。
性格が悪いわ。
性格の悪い奴の戦術だわ。
でも、かっこいい。
アタシもアレやりたい。
口で嘘つきながらハンドサインやるやつ。
アルダと以心伝心したい。
フリジア、なんていいポジションに居座ってるの。この魔女め。
「ティウィ! フリジア! 魔将の相手をしに行くな! 強い駒は浮かせて役割を果たせない位置に置いておけ! 雑多な魔族を削ることにしろ! 魔将が終盤まで残っていれば我がどうにかする!」
うわっ。
アルダのわざとらしい指示内容の大声で、魔将がビクッとしたのが見えた。
そりゃ怖いわよね。
魔天も一瞬で消されてたものね。
アルダ達に対して、魔族の方の魔将3人……こっちは全然息が合ってない?
3人の内2人は魔天チニルが死んだことで動揺してちんぷんかんぷんな動きしてるし、残りの1人は……なんだろう、他の魔族に指示出してるけど、全部裏目ってない?
ティウィが大技出した方向に仲間の魔族誘導したりしちゃってて、むしろ犠牲増やしてるわね。
あの魔族、魔族を裏切ってて、内側から魔族に大打撃を与えるための指示出ししてたりして。
んなわけないか。
魔族が魔族裏切って人間の味方する理由なんて無いものね。
「アイカナ!」
!
おおっ。
魔族が皆に押し込まれて行った先から、ぼわっと炎が広がって……伏兵だわ伏兵!
やるじゃん、ヴォラピュク兄妹!
一瞬で辺り一面に広がった炎が、待ち構えてたみたいに魔族を飲み込んだ!
アイカナ、ずっと伏兵として待機してたの?
やるわね。これが完全にトドメだわ。
「て……撤退だ! 全力で撤退しろ! 逃げ遅れたら、全滅だ! このままだと全員ここで殺されるぞ! 後ろに控えてる聖王アルダが出て来たら、そこで終わりだぁ!」
「わたしが殿を努めます! 走って! わたしの固有魔法の預言で未来を誘導します! 『北に逃げる者は救われるだろう』。さあ、早く!」
後はもう、魔族からの反撃はなく。
逃げる魔族に追撃をして、数を減らしていくだけの戦い。
3人の魔将はそのまま逃げおおせるも、他の魔族と魔獣はほとんど残らなかったみたい。
そうして、その日の戦いは終わった。
伝説の始まりの一戦を、記録に残して。
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