第95話 ざまぁ勇者さん、正ヒロインから謝られます

「ふざけるなぁぁぁ! この雑魚どもめがぁぁ!!!」


 メイズは、今度は魔獣へと変身した。

 どうやら完全に力押しで来るつもりらしい。


「神の精霊石が無くとも、貴様らなど葬ってくれる!」


 精霊石の加護はなくなった今、最後の戦いは力押しだ。


「ち、まだ奴の方が僅かに力は上か」


 カイルが舌打ちをする。

 神の精霊石が無かったとしても、本気を出したメイズは俺たち全員の強さを上回るらしい。


「お、おい。もう作戦は無いぞ。どうすんだよ!?」


「これを使うしかあるまい」


 キラーの質問にカイルが指さしたのは、彼の持つ『神の精霊石』だった。


「そうか。ルビアかカイルが神の精霊石を使えば、メイズにも勝てるか?」


「いや、お前が使うんだ」


 カイルもルビアも俺を見ていた。


「え? 俺が使うの?」


「そうだね。勇者が適任だよ」


 どうやら神の精霊石は、勇者である俺が使うのが最も効力を発揮するらしい。

 本当は分かっていた。

 でも、ざまぁされるクソ勇者がこれを使っていいのか、ちょっと複雑な気分だ。


「ま、気にしても仕方ないか」


「ああ、そうだ。ダイアはグロウの補助をしてやれ」


「承知しました」


 なんと、ダイアが俺の補助をするらしい。

 そういえば、神の精霊石はエルフがサポートすることによって、その効力を更に倍増させるという裏設定があったんだっけ?


 原作ではカイルの補助をやるものだと思っていたが……この物語はそうならなかったらしい。

 ダイアが無言で俺の背中に手を当てて、魔力を送ってくれている。


「ごめんなさい」


 ダイアの口から何故か謝罪の言葉が出てくる。


「ん? 何がだ?」


「貴方には、色々と酷い事を言ってしまいました」


「…………ああ」


 そういえば、散々な事を言われていたな。

 だが……

 

「気にしないでくれ。作戦だったんだろ?」


 ダイアはカイルがメイズに憑りつかれたことに気付いていた。

 そんなメイズを欺くために、今日まで演技をしてきたわけだ。

 よくそんな気の遠くなるような作戦を立てたものだ。

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