第94話 誰からも警戒されなかった雑魚が決めました

 たった一度だけ使える俺の最大の作戦。

 それを今から発動させる。


「エクスカリバー!」


 俺はエクスカリバーを使って、結界を展開した。

 この結界は味方を強化する。

 そこには『隠密』も含まれていた。


 メイズの結界に攻撃魔法は無効だ。

 だが、は可能である。


「ほう。なるほど」


 メイズが何かを察したように気配を探り始めた。


「そこだ!!!」


 そして、密かに近づいていたに攻撃魔法を放った。


「ち、気付かれましたか」


 舌打ちをして、その魔法を避けるフィオナさん。


「貴様の切り札は暗殺か? なるほど。確かに魔法を使わないその女は脅威だった。エクスカリバーで隠密のステータスを強化したようだが甘い! 我はその女だけをきちんと警戒しておったのよ!!」


 勝ち誇るメイズ。

 確かにこの状態でメイズにとっての最大の脅威は、魔法を使わない人間だ。

 それも暗殺に特化したフィオナさんが最も危険だったのだろう。

 読まれていた。


「ときにメイズ様。こと隠密においてとは何かご存じですか?」


「何の話だ?」


 だが、落ち着いた様子でメイズに質問をするフィオナさん。

 そう、メイズはに気付いていなかった。


「それはという事。これが最も脅威にして、隠密の極意にございます」


 そう、この場でメイズから全く警戒されてない人物。

 そいつがたった一人だけいた。

 その人物はこれまで一言も発していなかった。

 それはきっとメイズにとって、取るに足りない人物だった。

 だからこそ、メイズはエクスカリバーで隠密の能力が上がった『その人物』の接近に気付かなかった。


「……え?」


 それは突然の事だった。

 メイズを覆っていた結界が消えたのだ。

 本人もどうして消えたのか分からないようだ。

 ほどなくして、メイズはその原因に気付く。


「神の精霊石が……ない?」


 メイズが手にしたはずの精霊石が、いつの間にか無くなっていたのだ。

 そして、これが俺の最大の切り札だった。

 俺はその精霊石の行方を知っている。



「探し物はこれか?」



 その神の精霊石を持っている人物。

 それは『キラー』であった。


「な、なんだと?」


 つまり、キラーが隙をついて精霊石を盗んだのだ!


「お、お前、誰だ? いつからいた??」


「最初からいたぜ!」


 そう、キラーはずっと俺たちの後をついて来ていた。

 だが、カイルと対峙してからは一言も喋っていなかった。

 そしてずっと気配を消していた。

 キラーはフィオナさんから隠密術を学んでいた。

 その効力を最大に発揮するために、ずっと黙っていたのだ。


 エクスカリバーを展開して、メイズがフィオナさんに意識を向けたところで、俺がキラーに指示を出した。

 盗みは彼の十八番であり、それにエクスカリバーのステータス強化と隠密が加われば、非常に凶悪な『スティール』が可能となるのだ。


 キラーだからこそできる最後の切り札だった。

 この精霊石を盗ませるために俺はエクスカリバーを発動させたのだ。

 フィオナさんは完全な囮で、フェイクであった。


「嘘だ。こいつはただのモブだぞ。なぜ、こんなモブに!?」


「モブだから、警戒できなかったのがお前の敗因だ」


 結局、メイズはシナリオ作りとしても三流だったのだ。

 それぞれのキャラの個性をまるで把握できていなかった。

 だから、あっさりと神の精霊石を盗まれた。

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