第85話 悪の天使です
「ふふ、ふふふふふふふ」
黒いモヤが笑う。
どうやら『意思』があるらしい。
「一応、聞くぞ。何者だ?」
「ふふふ、我が正体を知りたいか? よかろう」
場に恐ろしい魔力が広がる。
これは攻撃ではない。ただ『溢れ出た』だけだ。
それはとんでもない魔力量だった。
ルビアすら超えているかもしれない。
黒いモヤは少しずつ形を作っていく。
それは『人』の姿だった。
いや、ただの人じゃない。『小さな少女』だ。
だが、その背中には羽が生えており、そして頭には輪のようなものが浮いている。
この姿を形容するならば、それは……
「我は……神なるものぞ!!」
神。世界を創造するもの。
だが、俺はその姿に見覚えがあった。
正確には別人だが、『よく似ている』のだ。
それは、天界であった天使にそっくりだった。
そして、彼女が言っていた特徴と完全に一致する。
つまりこれが、俺の探していた『標的』だ。
「お前が『悪の天使』だな!」
間違いないだろう。ついに見つけた。
俺をこの世界に召喚させた元凶だ。
「我が名はメイズ。神聖なるヴァルハラの御使いぞ!」
今の言葉で確定だ。
こいつが俺の本当の『敵』なんだ。
本来はこの世界に存在しない。
俺たちのような現代人を異世界に召喚する種族。
「お前は……何が目的なんだ? どうしてこんな事をする?」
「理由かえ?」
にま~と無邪気にメイズの口が歪む。
「最近の物語は、つまらん」
「…………は?」
こいつ、いきなり何を言っているんだ??
「そこな下郎。近頃の異世界転生は、実に下らぬと思わんかえ?」
「なんの話だ?」
異世界転生って、現代で流行っている作品の話か?
「現実で不幸なる者は、異世界に召喚されて人生をやり直し、幸せになる。嗚呼、平々凡々な物語よ。故に我が『真なる娯楽』を提供してやったのじゃ」
「娯楽……だと」
「異世界に召喚されたら、自分が
よよよ、と目の前の天使は涙を流し始めた。
「よいか? 『悲劇』こそが至高の娯楽よ。幸せになる物語など気色が悪い。吐き気がする。心が腐るわ。だから、我が悲劇を提供して、天使どもに『本物』を見せつけてやるのじゃ」
「ちょっと待て。そんな下らない理由で、俺はクソ勇者に転生させられたのか!?」
「下らぬだと!? 無礼者めが!! これだから、下賤の者は始末に負えぬわ!」
メイズの目が蛇のように細くなった。
それは睨まれただけで動けなくなるような迫力だった。
神を自称するだけあって、眼力も相当のものだ。
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