第84話 恐怖の『黒』です

「ふう、これで勝てるね」


「ああ。だがカイルの奴、やはり様子がおかしい」


「……うん」


 俺たちの察知した違和感。

 それはカイルの『頭上』だった。

 その頭上には『黒いモヤ』みたいなものが微かに見える。


「あそこ、なんかおかしいよね」


「ああ、俺も思った」


 まるでそこだけが、異次元に通じる亀裂みたいな、そんな違和感があるのだ。


「そうなのですか? 私には見えませんが……」


「ごめん。私も分からないや」


 フィオナさんとニーナにはあの黒いモヤは見えていないらしい。


「確かに、カイル様の様子は普通じゃないかもしれない。あの方は、もっと魔力量が大きい。ブルードラゴンも力を出し切れていなかった」


 ダイアも俺たちの邪魔をする気が無くなったのか、攻撃を完全に止めている。

 確かに、原作のカイルはもっと圧倒的だった。

 本調子ではないようだ。

 カイルがおかしくなっているのは、あのモヤのせいなのでは?


 いや、俺はあのモヤに対して予想がついていた。

 きっとあれが、例のミッションの『標的』だ。


「ルビア、あのモヤに全力でブラックホールリゲインを放ってくれ」


「おっけー」


 ルビアがカイルの頭上のモヤに狙いを定める。

 範囲を狭めて、更に魔力を凝縮させていた。

 まさに次元すら破壊できるほどの魔法力だ。


「そこだ!」


 収縮されたブラックホールリゲインがカイルの頭上にあるモヤに直撃する。


「ギャアアアアアア!」


 カイルが悲鳴を上げる。

 だが、カイルの声と同時に、『もう一つの声』が聞こえた。


 そして、その黒いモヤは、カイルの体から分離した。

 その瞬間、カイルが糸の切れた人形のように倒れる。

 そして、カイルが召喚したモンスターが全て消え去った。


「え? どういう事?」


 ニーナが不思議そうに首をかしげている。


「ちょ、ちょっと待ってください。あれはなんですか?」


 珍しくフィオナさんが動揺しており、彼女はあの黒いモヤを指さしていた。


「フィオナ、今は見えるの?」


「え、ええ。当然現れて……。さっきからお二人がおっしゃっていたのはあの黒いモヤの事だったのですね」


 どうやら、カイルと分離したことで、ニーナやフィオナさんにも認識できるようになったらしい。

 普段は誰かに取り付いて、この世界の人間には認識できないようにしていたという事だろうか。


「ねえ、あんたなら、あれが何か分かるの?」


「いや、俺も知らない。こんなのは原作でも見たことが無い。だが、正体は予想がついている」


 原作にすら登場しない恐ろしい『何か』。

 その正体は……

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