第70話 これが主人公の答えです
更に困惑した表情でカイルがルビアに質問をする。
「勇者グロウは、外道だぞ。分かっているのか? それとも、その権力に魂を奪われたか!?」
「そうではありません。ですが、貴方様の言う勇者様がその『真』ならば、貴方様の意見は正しくございましょう」
「どういう意味だ? なにを言っている??」
「彼は『別人』でございます。貴女様の言う勇者グロウではございませぬ」
「奴が……別人だというのか!?」
「ええ。わたくし、復讐を否定するつもりはございません。ですが、別人相手の復讐ならば、それはだたの『八つ当たり』です。全力で止めさせていただきます」
「本当に……別人なのか」
な、なんと。カイルがルビアの言葉を信用しようとしている。
やはりこれが……悪役令嬢の力なのか!?
俺がどれだけ説明しようとしてもカイルは全く聞く耳を持たなかった。
だが、第三者であるルビアの言葉は彼の耳に届くらしい。
ルビアが必死で作っている『悪役令嬢ムーブ』も大きな効果が出ているのだろうか。
「ご自分の胸に聞いてくださいませ。本当に彼は、貴方が知るグロウ様ですか?」
「…………」
「別人に復讐なさることを、貴方はご自分で納得なさるのですか」
長い沈黙。
既に完全に『悪役令嬢の空気』が支配している。
「復讐から生まれるものもございます。『復讐は良くない』などと口にする輩は、真の苦しみを知らない愚か者の戯言なのでしょう」
「僕の気持ちも、分かってくれるのか?」
「ええ。しかしながら、正しくない復讐だってございます」
「それはなんだ?」
「ご自分で『納得できない復讐』でございます」
確かに、復讐して後悔するなら、絶対にやるべきではない。
やるなら、遂行することで『前に向く』という決心ができた時のみだ。
「彼を殺して満足ができるなら、どうぞ」
「……く」
俺に向かって手をかざすカイル。
再びサラマンダーとウンディーネの魔力が充実し始める。
俺は目を瞑って受け入れる。
ここで抵抗しても無意味だろう。
ルビアも動かない。
どうやら結末は見守るつもりらしい。
「…………」
いつまで立っても精霊の攻撃がこない。
カイルが攻撃の指示を出していないのだ。
「…………ふう」
そうして、サラマンダーとウンディーネは消えた。
カイルが引っ込めたのだ。
「カ、カイル様!? どうして!?」
「彼女の言ったとおりだ。彼は、勇者グロウじゃない。別人だ」
カイルが天井を見上げる。
「僕だって、本当は分かっていた」
苦々しい表情で語っている。
恐らくクソ勇者の悪行を思い出しているのだろう。
だからこそ、俺が別人だというのは他ならぬカイル自身が誰よりも分かっているのだろう。
「なあ、お前が別人ならば、本当の勇者グロウはどうなったんだ?」
「多分、消滅した。俺の人格が上書きされたからな。まあ、乗っ取ったとも言える」
考えたら、勇者側からしたら酷い話だ。
だが、これは天誅ともいえる。
「ふっ。体を乗っ取った? あんたも酷い男だな」
初めてカイルが笑う。
その顔はどこかスッキリとしたようでもあった。
「つまり、僕の復讐は、お前がやってくれたってことか」
「そうなるな。悪いな、横取りしてしまって」
「ふ」
もはやカイルに敵意は無かった。
「カイル様、ダンジョンはいいのですか?」
「さすがに『別人』を殺してのダンジョンを奪う気にはなれない。諦めるさ」
結局、彼はどこまで行っても『主人公』だったのだ。
手段を択ばないカイルだが、その『プライド』はある。
自らが『悪人』と認定した相手でなければ、殺害での強奪は出来ない。
そうしてカイルはダンジョンから出ていく。
その後ろをダイアがついていった。
これで主人公の『ざまぁ』は終わりを告げた。
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