第65話 大ピンチです!
そうして翌朝、俺はダンジョン内で目を覚ました。
カイルたちの夜があまりにも肩透かし過ぎて、つい寝てしまったらしい。
『グロウ様、大変です!』
「……ん?」
フィオナさんの切羽詰まった声がトランシーバーから聞こえてくる。
『大変です。カイル様たちが消えました』
「なに!?」
一気に眠気が覚める。
「消えたって、どういうことだ?」
『宿からの気配が消えています。おそらく転移で抜け出したのでしょう』
そういえば、カイルたちは『転移術』を使う事ができる。
扉から出なくても、宿から脱出することが可能なのだ。
しまった。
奴らめ、尾行対策は完璧だったか!
「町から出たってことか?」
『いえ、それがどうやら町からは出ていないようです。そこまで気配は遠くありません』
フィオナさんは微力な魔力量を探知できるらしい。
具体的な位置までは分からないが、カイルたちがどこにいるのかおおよその場所は分かるようだ。
つまり、『この町のどこかにいる』のは間違いないみたいだが……。
「私、カイルを探してくるね。グロウ様はここで待っていて」
「ニーナさん!?」
「私は大丈夫。でも、グロウ様は絶対に外に出ちゃダメだよ?」
アビスちゃんが止める間もなく、ニーナはダンジョンから飛び出していった。
一瞬、追いかけようとも考えたが、俺が下手に動き回ってしまうのが最も危険だ。
ニーナにも考えがあって、外に出たのだろう。
本人も言っていたように、俺は動かない方がいい。
それからしばらく、俺はダンジョン内で身を潜めていた。
「ん?」
そんな時、店の扉が開く音が聞こえてきた。
キラーの件があってから、防犯のためにダンジョン内でも店の様子が伝わるように改装した。
これもルビアの案で、彼女の特製の魔力機を使ったシステムだ。
入ってきたのは二人組だ。
今日、店は臨時休業にしていたので、客ではない。
これは……男が一人、女が一人だ。
そして、この強力な魔力には覚えがあった。
「ひっ!?」
アビスちゃんの表情が真っ青になる。
どうやら彼女もこの魔力を感じ取ったらしい。
ガクガクと全身が震えている。
アビスちゃんがそんな風になる相手は、ルビアを除いてこの世に一人しかいない。
「カ、カイルか!?」
なんで奴がパン屋に!?!?
もしかして、お腹が空いて、パンを買いに来たのかな?
なんて考える俺は、確実にめでたい男である。
そもそもパン屋は臨時休業だ。
それなのに店内に入ってくるということは、それはつまり別の目的がある。
まさか…………俺を探しに来た?
馬鹿な。俺の事なんて、気にしないんじゃなかったのか?
どうしてこんなところまで俺を探しに来たんだ?
いや、それ以上に、なんで俺がここにいるのが分かった?
しかも、まっすぐにダンジョンの入り口の方へと向かっている。
すなわち、俺の元へきているという事だ。
これはもはや疑いようもない。奴は俺を探しに来たのだ。
カイルが地下倉庫へ入ってきた。
そして、そこには誰でも分かるようなダンジョンの入り口がある。
「アビスちゃんはダンジョンの奥に行くんだ! 奴は危険だ!」
「で、でも……」
「いいから……早く!!」
「は、はい」
アビスちゃんはダンジョンの奥に避難させた。
俺もとっさに近くの物陰に隠れた。
もはやカイルがダンジョンに入ってくるのは時間の問題だろう。
その予感が的中するかのようにカイルはダンジョンの内部へ入ってきた。
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