第66話 俺がダンジョンの主です
「やはり『ここ』だったか」
「ええ。これがダンジョンですね」
カイルとダイアの声が聞こえてくる。
「カイル様の言った通りでしたね」
「ああ、ダンジョンの『気配』を感じた。やはり気のせいじゃなかったようだ」
その会話で俺の中のパズルのピースが組みあがった。
そうか……そういう事だったのか!!
カイルが言っていた『気配』。
その正体は『ダンジョンの気配』だったのだ。
奴がこの町に早く帰ってきた理由もこれが原因か!
ダンジョン出現の気配を感じて、それでこの町にダンジョンを探しにやってきたのだ。
神から祝福を受けた主人公のカイルにはダンジョンの気配を感じる能力が備わっていた。
原作ではあまり語られなかったので、俺はその設定をすっかり忘れていた。
このダンジョンは原作の時間軸ではまだ発見されていなかった。
原作を知る俺が一足早く発見したものだ。
だから、遠く離れた場所でも、カイルはダンジョンの気配を追ってこの場所に来た。
俺を追ってきたわけじゃなかったのは良かったが、それでもダンジョン内に待機していたのが仇となってしまった。
これでは完全に袋のネズミである。
追い詰められてしまっていて、逃げ場がない!
何とか見つからないように祈るしかないが……
「それで、さっきからそこにいるお前。何をしている?」
しまった! 気配で見つかったか!
カイルは気配感知能力もずば抜けていた。
特に勇者は魔力量が人より多いので、それだけ探知に引っかかりやすい。
これはもう言い逃れは不可能か。
「…………ふう」
仕方ない。姿を現すしかない。
これ以上隠れていても、カイルの先制攻撃を許すだけだ。
「む、貴様は……勇者グロウ!」
流石のカイルも俺がここにいたのは意外だったらしい。
「なぜ貴様がこんなところに? そして、何をやっている?」
「…………」
「答えろ!」
カイルは一瞬だけ怒るが、すぐに怪訝な表情となった。
「む? この気配、貴様はこのダンジョンを攻略したのか?」
ダンジョンの気配を察知できる彼は、そのダンジョンが『攻略済み』か認識できるらしい。
ここで言う攻略とは、ボスの撃破。
アビスちゃんが降参しているので攻略とみなされているのだろう。
「ふん。一足遅かったか。すでにこのダンジョンは攻略されていたんだな。かなり強力なボスモンスターの気配も感じていたが、まさか貴様が倒すとは……な」
どうやらカイルはアビスちゃんが討伐されたと勘違いしているのだろう。
その方が好都合だ。
アビスちゃんに危険が及ばなくなる。
「ああ、このダンジョンの主は俺だ」
俺がダンジョンの主という事にした方がいい。
今やアビスちゃんもざまぁ回避同盟の一人だ。
彼女の命を守らなければならない。
このままでは原作通り、アビスちゃんが『討伐』されてしまう。
それだけは回避しなければならない。
「なるほど」
俺の答えを聞いたカイル。
彼は警戒するように眉をひそめている。
自分の知る勇者とは違う。
様子がおかしいと思っているのだろう。
本来なら、勇者なんてマウントを取るばかりで会話にもならないくらいクソ野郎だ。
それが、こんな『まともな会話』をしているんだ。
驚いて当然だろう。
「なら、僕が貴様を倒してこのダンジョンの所有権をもらう」
やはりこうなるか。
ダンジョンを手に入れるためにカイルはここに来た。
それこそ、『強奪』という手段を使っても、ダンジョンを手に入れるつもりだ。
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