第5話 海辺にて

「研二ぃい〜〜!! 海だよ〜〜!!」

「へぇへぇ」

 雨宮がバスの中でガッツポーズを突き上げる。

「お前は元気でいいね」

「何おじいちゃんみたいなこと言ってるの、ここではしゃがなければどこではしゃぐ!」

 板垣を見ると既に水着姿になっている。

「早すぎるだろ」

「は?」

 なんのこと? という顔をされたのでスルーしておく。二人とも元気だな。おじいちゃんは浜辺で見といてあげるから。

 ……と思っていたのだが、早々に二人に強引に水着に着替えさせられ、海に放り込まれた。

「だぁ!!!!」

「気持ちいいね~」

 バシャバシャと水をかけられる。負けじとかけ返すと、壮絶な水の掛け合いが始まった。5分後、俺たちはぜいぜいと息をしながら浜辺に寝転んでいた。

「やりすぎた……」

「水が鼻に入ってイタい……」

「おいおいお前ら、こんなすぐへばってどうすんだ」

 板垣が呆れて言っていた。

「板垣くんたち〜!」

 体を起こして声のした方を見ると、町のほうから、三人のシルエットがやってきた。小柴たちだ。

「二人ともどうしたの?」

 小柴が俺と雨宮を少しかがんで見つめる。俺はドキッとして背中を向けた。

「……少しはしゃぎすぎた」

「なにそれ」

 ふふっと小柴が笑う。女神だ。

「りりあちゃんの伯母さんがお弁当作ってくれたんだって。一緒に食べよ、三人とも」

「な、なんだって!?」

「ありがたき幸せ……」

 拝む二人。俺も頭を下げた。旅館に行ったらお礼を言おう。

「そーいやすっかり飯のこと忘れてたな」

「食べざかりなのにね〜。海で全てがふっとんだね」

 四人で連れ立って歩き、加護と宮本の元に向かう。水色と白色のパラソルの下で、加護は涼しげに微笑んでおり、宮本は扇子で顔を扇いでいた。

「揃ったね〜。じゃあいただきましょうか」

「いただきます!」

 手を合わせて弁当箱を覗く。ミートボールや卵焼きなんかが所狭しと並んでいる。

「う、うま〜……!」

 雨宮がおそらく感動で目をキラキラさせている。

「桐谷、ヤバいぜ、このコロッケ。トぶぞ」

「まさか……」

 騙されたと思って口に運ぶ。その瞬間、宇宙が見えた気がした。

「ヤバ……クソうめぇ……」

「だろ!?」

「なんかさ、君たちとこうやってご飯一緒に食べるなんて思わなかったな」

 そう宮本が言った。

「確かにね〜。加護さんと唯斗が幼なじみなんて新情報すぎた」

 そう雨宮がニコニコしながら言った。

「親同士も仲良しでね。たまに家に呼んだりするの」

 そう加護が微笑んで言った。

「なにそれ楽しそう」

 雨宮が拳を作る。

 ふと視線を感じてそちらを見ると、小柴と目が合った。ドキリとして目をそらす。なんだ……なぜ微笑んでいるんだ……。

「加護のグループも文化系だし、俺んとこもそうだから気が合うと思ったんだよな」

 そう板垣がミートボールを頬張りながら言った。

「確かにそうかもだけど、それじゃ板垣くん異質じゃない? ゴリゴリの野球部でしょ」

 すると板垣は照れたように頭をかいた。

「俺も漫画は読むし、なにより桐谷と幼なじみだからな」

「えっそうなの? じゃありりあと桐谷も幼なじみ?」

「いや、幼稚園生の時に桐谷と同じ施設に通ってて、小学生は離れて、加護と一緒の学校だったんだ」

「なるほどね〜」

 宮本が顎に手を当てて頷いている。

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