第2話 ふくれっつら

「見てあれ。また男子が馬鹿なことしてるよ」

 美紀がそう言って男子の集団をやれやれといった目で睨んだ。

「ああいうのも青春よねぇ」

 微笑みながらりりあが言う。

「楽しそうね」

 私がそう言うと、美紀が両手を広げた。

「ああいうので楽しめるのは男子があほだからよ。ああはなりたくないわね」

「美紀ちゃんの男子嫌いは筋金入りだねぇ」

「好きで嫌いなんじゃないもの。向こうがそうさせてくるのよ」

「美紀は可愛いわね。ほんとは気になるんでしょう」

「はぁ!?!? 寝言はたいがいにしてよ、りりあ!!」

 仲良しの宮本美紀ちゃんは、おかっぱ頭に眼鏡を掛けた女の子だ。優しくて、意見がはっきりしてて、頼りになる友達。その向かいに座る加護りりあちゃんは、大人っぽいロングヘアに大人っぽい笑みを浮かべた素敵な子。3人グループである。

「しっかし、美紀はBLが好きなのにどうして男子は嫌いなのよ」

 りりあが美紀にそう言った。

「だって、私が好きなのは成人男性の交流なのよ。男子高校生は対象外」

「もったいない。男子高校生も宝の山かもよ?」

「なにあたしをけしかけてるのよ」

「私は美紀のためを思って言ってるの」

 りりあと美紀の掛け合いはもはや恒例である。何かにつけて二人は言い合うが、それが完成された、様式美的なものだということを私は知っている。微笑ましい。

「もしあの子たちと仲良くなったらどうする? それでも美紀はハスに構えるの?」

「その時はその時よ」

「あら可愛いのね」

「ぐぬぅ」

 桐谷くんと目が合った。微笑んで手を振ると、手を振り返してくれた。桐谷くんとは、美術の時間に話すようになって、ちょびっとだけ親しくなった。鉛筆を忘れた私に、快く2Bの鉛筆を貸してくれたのだ。

「たまたま二本持ってきてたんだ」

 そう言って笑ってくれたのだが、私はその後、桐谷くんがシャーペンでデッサンを書いているのを見てしまった。返すと言うと、桐谷くんは「いいよ、バレなきゃ大丈夫」と飄々として言った。あんまり表情が変わらない人だけれど、優しさが伝わってきて私はじんとした。

「誰に手振ってるの」

「桐谷くん」

「えっ!! 桐谷!! あの変人眼鏡!!」

「こら、失礼でしょう」

「だってアイツ、アイドルのおっかけやってるんだよ、男の。ヤバいでしょ」

「理解のないモブキャラみたいなこと言うのね、美紀」

「私はへんな奴に綾音が引っかかってほしくないの!」

「私は桐谷くんと仲良いし、その人のことそんなふうに言ってほしくないな。桐谷くんは優しい人よ」

「……ほんとかよ」

 美紀は不機嫌そうな傷ついたような顔をして椅子に深く腰掛けた。

「美紀はヤキモチ焼いてるのよね」

「ヤキモチ?」

「美紀は綾音のこと大好きだものね」

「……ふん」

 私は呆れてしまった。なんて子どもで、なんて可愛い子なんだろう。

「心配してくれてありがとね、美紀。でも大丈夫よ」

「私はただ……」

 泣きそうな声で美紀が言葉を途切れさせた。私はりりあと二人で顔を見合わせ、美紀を二人で両サイドから抱きしめた。

「よしよし! 可愛い子ね」

「可愛い美紀!」

 美紀は恥ずかしそうに、怒ったみたいな顔でふくれ、

「……あんなこと言ってごめん」

 と素直に言った。可愛いね。

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