君に祈りは届かない。
@hoshiame_1445
第1話
なぁ、お前最近保健室行き過ぎじゃね?」
俺は目の前にいる祈 梨愛へそう言った。
梨愛は一瞬フリーズして、
「最近、体調が安定しなくて…」
と言った。
「仮病じゃねえの?明らかに保健室に行き過ぎだろ。4人班だから一人欠けると面倒臭いんだよな。まじでちゃんと授業でろよ。」
日頃のストレスからか、言葉が強くなって棘が多い。梨愛は悲しそうな顔をした。
「仮病なんかじゃない、よ。廉くん。」
梨愛は必死に絞り出したような言葉でそう言った。そして俺から逃げるように背中を向けて何処かに行ってしまった。
俺は咲崎廉。男子の中ではかなりモテるし人気もあるほうだと思う。
最近は同じ班で隣の席の祈梨愛がストレスである。毎日毎日保健室に行く。一日一回は行ってるんじゃないか?
梨愛がいないせいで理科の実験道具を俺が運んだり、発表などをしないといけない。
だからムシャクシャしている。そんな状態で家に帰り、寝た。
そして俺は身体の違和感で目を覚ました。
ほんのり明かるい時計は12時を指している。
身体を起こすとなんだか身体が怠かった。息も苦しいし、どこからか痛みがする。腹痛もするし、頭痛も酷い。目眩がして俺はベッドに倒れ込んだ。
いつもと違う感触。
ふわっと洗剤の甘い香りがする。
身体を包み込むような柔らかさ。
どう考えても俺のベッドとは違う。
俺のベッドは割と硬いしちょっと臭い。
ガバッと起き上がる。
部屋が暗い。電気のスイッチはどこだ?
なんだか軽い、とても重い身体に鞭を打ち、壁に沿って明かりのスイッチを探す。
少し進むとふわふわのカーテンがついた窓があった。
明るくなれ、と思いながらカーテンを引っ張る。
案の定ずれたカーテンの隙間から光が差し込む。
ちょうど光は明かりのスイッチを照らしていたから、俺はそこへ歩いて行く。
パチっと音がして、ほんのりピンクの明かりが部屋を照らした。
7畳ぐらいだろうか?俺の部屋より開放感がある。白やピンク、水色などの淡い色で合わせられた部屋は俺のものではない。
部屋にはベッド、机、と大したものはない。むしろ少ない。
部屋をじっくり見ると、机の上にコップに入った水があるのを見つけた。
その瞬間喉の乾きが主張を激しくし、飲みたい、という欲求が湧いてくる。
よろっとしながら机へ寄り、コップを手に取る。
そして、口へ運び、喉の乾きを終わらせよう。
口をつけようとしたとき、気がついた。
なんだかドロっとしている。
ハッとし、匂いを直感で嗅ぐ。
ふわっとした洗剤の匂い。ベッドのものだ。
どうしてコップに洗剤があるのか?
と思うと、ある『違和感』に気が付く。
ロープだ。そこそこの太さだ。手首ぐらいだろうか?比べようと手首を近づけ、血塗れのパジャマ(?)のそでをめくる。
そして血塗れの手首を近づけ、ちか、づけ?
血塗れ?なぜ手首とパジャマは血塗れなんだ?
足もだ。太腿の、見えないようなところに。
そして机の上にはカッター。もちろん血塗れ。
ゴミ箱には血塗れのティッシュがある。
部屋の端にはビニールに入っている大量の封筒。
それぞれに「遺書」と書いてある。
その封筒の一つを手に取り、じっくり見つめる。
裏を見ると、124日目、と書いてある。
中には丁寧な字で物騒なことが書いてあった。
『今日は、カッターで首を切って自殺してみます。毎日、挑戦してますが、やっぱり難しいですね。』
…………。
そして俺はコップの横にも同じ封筒を見つけた。
封筒には132日目、と書いてある。
中はまたもや物騒なことが。
『今日は洗剤を飲んでみようと思います。洗剤は一杯飲むと死ぬらしいので!今日は死ねたらいいな。』
なんなんだよ…。これ…。
明らかにここは俺の部屋ではないし、なんだか体調も優れない。
「部屋の、外に…っ」
違う。これは俺の声ではない。
鈴をころころと転がすような声。
明らかに声変わりし、低くなった俺の声ではない。
それに、この声には聞き覚えがある。
『仮病なんかじゃない、よ。廉くん。』
梨愛だ。この声は。
なんでなんだ…?
これは、夢か…?
でなければ説明がつかない。
そうだ。鏡。
鏡を見よう。
そしたら、きっと…。
だが、この部屋に鏡はなかった。
ドレッサーぐらい女子の部屋にはあるもんじゃないのか…?
……偏見なのかもしれない…。
とりあえず部屋から出るか。
がたんっ!
……開かない?
がたんっ!
がたんっ!
いや、力が弱くなっているのかもしれない。
こんな細い腕では力もはいらないか。
ならば…っ!
俺は体重をかけ、思いっきりドアに飛びついた。
が、ちゃ…。
「開いたっ…!」
部屋の外はとても暗く、流石に少し怖い。
なにか明かりをみつけるか…。
スマホだ。
ロックがかかっていて、開けれそうにはない。
iPhoneだろうか…?
なら、指紋認証とかができるのかもしれない。
右手の親指を押し当ててみる。
開いた。
背景は、どこかの風景だ。
風景、といえるのだろうか。
半壊した教会のような建物。
天井にはステンドグラスが張り巡らされているが、それも半壊している。
壊れた壁からは夕焼けのひかりが差し込んでいて、まぁ、悪くはない景色だ。
アプリは極端に少ないが、まぁ、見るのは良くないだろう。
iPhoneのライト機能で廊下へすすむ。
視界が良くなく、足元に気をつけて進む。
階段、か…。
他にも部屋があったが、空き部屋や、トイレだった。
鏡はなく、空き部屋に関しては物がなかった。
なんだか、嫌な感じだ。
心は嫌と言っているのに、身体は違う。
慣れている。
俺はチビりそうな程怖いのに、身体はそれが当たり前のことかのように慣れている。
この違いが気持ち悪い。
俺はその階段を眺め、仕方なく足を伸ばす。
ぎぎぎぃ…が、ちゃ…。
「……ッ…!」
誰かいるのか?
嫌だ。
身体が拒否している。
逃げないと__。
直感的にそう思った俺は近くのタンスに隠れた。
スマホの明かりは消して、息を潜めた。
そして、月明かりだけが照らしている廊下を隙間から眺めた。
ぎぎぎぃ……ぎぎぎぃ……ぎぎぎぃ……
嫌な足音だ。
隙間から必死に様子を伺う。
………。
熊だ。
いや、クマだ。
クマのぬいぐるみ。
梨愛の身長が140センチあるかないかぐらいだから、あのぬいぐるみは170センチはあると考えられる。
それぐらいでかい。
俺だって160センチだったんだぞ__!
そのクマの手に持っているものが隙間ギリギリで通っていった時は死ぬかと思った。
血まみれの鉈。
よく見るとクマも血まみれ。
クマはまっすぐ梨愛の部屋へ向かい、中に入って行った。
やばいかもしれない。
この家から出ないと…!
少し様子を伺い、クマが出てきそうではなかったので、外へ慎重に出た。
梨愛の身体は体重自体は軽いんだろうが、優れない体調のせいで、思うように動けない。
だが、身体が軽いお陰であまり足音は鳴らなかった。
床もしっかりとしていて、ギシギシは鳴らない。
その床をギシギシ鳴らしていたクマが恐ろしい。
あのクマに乗られたら間違いなく死ぬだろう。
俺はそんなことを考えつつ、慎重に階段を降りる。
慎重に手早く部屋を見て回る。
リビング、キッチン、ダイニングが合わさった大きな部屋。
大分大きい。
20畳はある。
そして、トイレ、お風呂。
お風呂はジャグジーがあった。
もう一つ風呂があって、そこは普通にバスタブだった。
金持ちなのか…?
トイレは綺麗な飾りとかがあって、普通に綺麗だった。
しかも割と広い。
普通のトイレが1畳ぐらいなのに、梨愛の家のトイレは3畳ぐらいあった。
恐ろしい。
ぎぎぎぃ…ぎぎぎぃ…ぎぎぎぃ…
足音だ。間違いなくクマの。
俺の近くで隠れれそうなところは2つ。
トイレと押し入れ。
直感でトイレに入る。
鍵をしめ、明かりはつけず、iPhoneの明かりで道を探す。
ある、のか?トイレに隠れたのは間違いかもしれない。
やばい…やばい…やばい…やばい…やばい…やばい…やばい…やばい…やばい…やばい…やばい…やばい…やばい…やばい…やばい…やばい…っ!
どうしよう…っ!
殺されるかもしれない!
なにか…っ!なにか…っ!
と、焦る俺を差し置いて、足音はリビングの辺りへ。
まずいっ…!
そして、俺は一つの希望を見つけた。
階段状の棚。
綺麗な飾りが置かれていて、かつ頑丈そうで登れそうだ。
そして階段状の棚の上にはダクトの入口のようなもの。
俺は物音を立てないよう、慎重に棚を登る。
ダクトの入口を慎重に開け、中へ入る。
ダクトの中は狭いが、這いずれば進める。
とりあえずここで様子を伺おう。
がちゃんっ!
鍵をかけたトイレのドアを揺らす音がする。
クマか…っ!
がちゃんっ!
[きゃははははははぁっ!]
甲高い女の様な声。
恐らくクマの声だ。
獲物がここにいると確信したクマは、ドアを揺らしまくる。
がちゃんがちゃんがちゃんがちゃんがちゃんがちゃんがちゃんがちゃんがちゃんがちゃんがちゃんがちゃんがちゃんがちゃんがちゃんがちゃんがちゃんがちゃんがちゃんがちゃん___っ
ガチャ…
ぱちっ
クマは血まみれの手で器用に明かりをつけ、中へ入ってきた。
俺は息を潜める。
[きゃはぁ?]
クマは困惑したような声を上げた。
俺は怖くて、慎重にダクトの奥へ引っ込んだ。
クマのサイズ的にダクトには入れないだろう。
どこかに出たいな。
適当にダクトを進んでいく。
すると玄関らしきところについた。
だが、ドアの前にすごく重そうな重りがあって、どかせそうにはない。
困った。
一旦引き返して、良さげなところへ行こう。
……。
階段のところか。
どこへ行こうか…。
2階で物があったのは梨愛の部屋だけだ。
大人しく梨愛の部屋でなにか使えそうなものを探そう。
音的にクマはトイレ辺りだな。今のうちに行こう。
梨愛の部屋はドアが堅かったんだが、今見てみると、大量のガムテープが貼ってあったようだな。
とりあえずそーっと入って物を漁る。
血まみれのカッター。
よく見ると持ち手が変形している。
なにかに握りつぶされかけているようだ。
明らかに梨愛ではないな。
さぁぁぁぁあ…。
風の音がした。
俺はすっと身を隠した。
俺は窓を開けていないし、窓に人影があるからだ。
窓は俺が来たときには閉まっていた。
「やっと__。」
人影がなにか喋る。
「やっと廉くん見つけた___!!!」
「え」
なんと、俺だった。
次回に続きます。
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