第27話

   おわりに 


あの子が火葬されてお空に向かう日は、皮肉にも僕が去年死を救われた5月1日、だった。

僕を精神科に尋ねに来てくれたとき、あの子のお母さんに、僕の存在が知れた。

その前から知っていたらしいけど、僕らの関係を深く話したのは、その頃らしい。 

僕も火葬場に招かれ、外出許可と、ノートの所有権を半ば無理矢理、主治医からもらった。

思い返せば、僕は3月30日、あの子の書いたページを多く含めたノートを他の患者に破られ、大事なものが裂かれたことでプチンと切れ殴りかかってしまった。 

2週間保護室、つまり隔離室、と言われ、大人しくカクリされていたが、4月10日に出てノートを書こうと思っていたが、それを主治医が断りなく読んだ上に心情が乱れるから、と取り上げ

られ、感情が溢れて暴れ、また2週間カクられた。 

今度はノートが取り上げられて、モニターで監視されているのに暴れ、2週間、4月24日に

なんとか出たが、1週間の閉鎖病棟観察、と言われた。 

1週間だと、5月1日で、あの子といつも会うのは、月終わりの日。つまり4月30日。 

1日だけ勘弁してくれ、とノートを取り上げた主治医に媚び、4月30日に開放病棟に移り、

あの子に会いに行った、という訳だ。

そんなことを考えながら火葬場に着いた。 

「やっと会えた!来てくださってありがとう。娘がとてもお世話になりました。」 

そのひとは、あの子の母ということだった。 

「いえいえ、僕が救われていたんですよ。」と言う僕の言葉が聞こえていないかのように、

「娘は、幼い頃から病に見舞われ、治ったかと思えば再発し、最初は笑顔も見えていましたが

病が進み元気はなくなり、ネガティブな言葉で、私に当たり散らすようになりました。テレビで出ている病気の子どものように、親、の笑顔のために頑張ってほしい、とも思いませんでした。ただ、娘が楽しんで毎日を、息の続く限り喜び溢れる人生にしてあげたい、と思っていました。でも、私は手を替え品を替え、なのに無力でした。そこへ、あなたが現れたのです。」

「は、はい。」 

「あなたを元気にさせたい!それが娘の原動力になり、笑顔もまた見られ、活気も出て、前向

きに治療と向き合う姿は、涙が出ました。お母さん、ありがとう、と言ってくれる余裕が出来て、親として、あなたには感謝しかありません。娘から話には聞いていましたが、あなたにはどうか生きてほしい、と、破れたノートは娘がテープを貼り直しました。」 

「続き、読みました。僕のバカさがよく身に染みました。僕も娘さんには、感謝です。」 

「最後にあなたに手紙を書いていて、どうか受け取ってください。娘の最後の遺言です。」 

「わかりました。確かに受け取りました。」 

ーー

『やほー!あなたがこれを読んでいるときは、5月1日、私の火葬かな?でも私が実際に死んじゃったのは、もうちょっと前だと思う。遺体を残してもらって。3月中旬の余命宣告は、4月末まで生きられたら良い方。で、体力も落ちてきたから4月のメッセージは、緩和ケアに入って、そのうち意識が朦朧としてくるだろうからって、先に書いたよ!この手紙と、あと5月1日に火葬、ってお母さんに頼んだのも私。ひとつ、教えておくと、あのあなたより私は心が弱すぎる人間だった。だからあなたの代わりに、私がなったの。最後に言いたいことは、私の代わりにあなたには生きてほしい。それが遺言です。いつだったっけ、律儀なあなたなら、守ってくれるよね!もうひとつネタバラシすると、気づいてるかはわからないけど、前の月の日のあなたの文章に、次の月の日の私が、答えを書いています。気になる?じゃあ、どうぞ!最後のお

別れに、もう一度確認してみて!私と出逢ってくれて、ありがとう!あなたが健やかに、幸せ

に生きられることを、お空から見守っているね!あなたが老いて、寿命が来るまで、私は天国で待ってるから!〜私の愛したあなたへ〜』 

ーー 

「楽しい遺言だな……。ありがとう。」 

いろいろな思いが巡り、僕は涙が止まらなかった。

火葬されるときに、棺にノートと、それと手紙も入れようか迷ったけれど、これから先も、ず

っと僕が持っていることにした。

だって僕はこれから先も、あの子がくれたノートと手紙と写真と、一緒に生きるから……。

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