第8話

7月。

僕は、君が羨ましいです。

その理由は君を傷つけてしまう。

でも、君にそれを隠したままだと、君と話が噛み合わなくなる。 

僕の本当の気持ちを言えていないから。 

僕より子どもの君にこんなの背負わせるべきじゃないんだろうけど、

ちゃんと本音を言わないと、お互いのことが知れないと思った。

今月は君をがっかりさせてしまうかもしれない。

ごめん。 

はじめます。

7月1日 君は病院にずっといられるから、厳しい世の中を知らなくて明るいんだろうね。

7月2日 孤独も、上手くいかないことも、知らない君は、僕の気持ちはわからないと思う。

7月3日 病院は延命するためのもの。なかったら、君も僕も死んでいる。ここで出会えたこと

は、ある種の奇跡なのだと思う。君の、生きたい、って気持ちが僕のことを、醜く際立たせる

。生きたい、と輝く君は、死にたい、と泥沼の僕の気持ちはわからない。お互いに。

7月4日  もし僕が今日死んだら、君はどう思うのだろう。付き合いも浅かったし、忘れるの

かな。それとも悲しむのかな。ほどほどかな。

7月5日 死にたい、というワードが浮かんでこないひとが不思議なくらい、死にたいくんは僕

の頭に住み着いている。座敷わらしが住み着く幸せの逆で、死にたいくんは住み着いて不幸を

持ってくる。君には一生、この妖怪は見えないんだろうね。

7月6日 子どもで病気と闘って頑張っている、って子どもが褒められる美談だけど、子どもが

不登校でやさぐれてるのは美談じゃないし、親が褒められる。後者の僕は、居場所がどこにも

ない。 

7月7日 今日は七夕だね。精神科では給食が七夕メニューだったよ。そっちはイベントとかあ

ったのかな。小児科だもの。あるだろう。僕も一応、その年齢なのだけど。 

7月8日 死んだら楽なのに死なないのはどうしてか、自分でもわからない。病院だと気づか

れるし、かな。

7月9日 自殺しなくても死ねる君が羨ましい。自殺は、死にたいのに怖い。安楽死したい。

7月10日 弱い自分が嫌になる。強い皮を被っていた時期もあったけどもうズタボロだよ。

7月11日 死んだほうがマシだ。今が人生でどん底の底辺だろう。君がいなかったら尚更。

7月12日 過去の自分が大嫌いだ。でも今の自分もマシだけど嫌いだ。自分の存在を、今すぐ

にでもなくしたい。 

7月13日 どうして僕は死にたいのか考えたとき、この世界の全てに絶望したから、未来がな

いから、辛いから、漠然とした脱力感。細かい理由も昔はあった。でも、終わらせて楽にな

りたいのは、甘えではないと思う。 

7月14日 死にたいよ。僕にはもう未来がない。幸せにもなれない。辛い。苦しい。 

7月15日 どうして僕はここにいるのだろう。現実味もなくただ疑問に思い、偏頭痛がする。

7月16日 僕の中に多く、希死念慮以外で浮かぶのは、君のことだ。助けられたんだから、何

かしたいなと思いながら、助けてほしくなかった、という気持ちも捨て切れない。だってあれ

から死ぬ勇気が出ないから。 

7月17日 生きたいのに生きられない君と、僕の命と身体を替えてあげたいよ。僕は自殺未遂

も何度も突破した、不死身な身体だよ。君にあげたい。僕も死ねるし、丁度いい。切実に。

7月18日 辛いことしかない人生。僕は何のためにこの世に落とされたのだろう。 

7月19日 愛されて、望まずとも死ねて、君を羨ましい僕が、僕は嫌いだ。 

7月20日 僕が小5だった頃、外で小学校に通っていた。一年と少し前のことだ。僕より下級

生の子が、小児癌で亡くなった。その子の親はその子を大事にし、友達は泣き、先生も学校も

その子にありがとうのお便りが出された。それを見て僕は泣いた。不純な理由だ。病気になれ

ていいな。自分で何もせずに死ねていいな。そんなに楽して死んでるのに、周りのひとたちに

悲しがってもらえてなんて幸せ者な子だろう。普通に考えたら、その子の死は残酷なものだっ

た。でも、汚れている僕は羨ましく思った。その感情を、君にも少し思っている僕を、君は嫌

になるだろう。長くなった、ごめん。 

7月21日 不幸が明らかに起きているひとが羨ましくなる。君もそう。身体の病気で、認め

られて、優しく扱ってもらえる。僕の病気は思考と心の問題で、線が引きにくくて、努力不

足とずっと言われてきた。君はちっちゃな頃からずっと頑張りを過大評価されて、こんなに

明るくいられるんだろうね。ごめん。 

7月22日 身体的虐待を羨ましく思う。痕が残るし、気づいてもらえる。心理的虐待は痕が

残らない。僕の親はなんともない顔をして、虐待をしているつもりでもない。しつけ。そして

僕の心が弱いだけ。

7月23日 病院で守られて、過ごしている君にはわからないよ。外の世界のひとあたりの強さ

も、白い目でみられる辛さも。 

7月24日 死にたい気持ちがなかったら、どれだけ楽に生きられるだろう。自分で闘ってもな

んとも出来なかった。結局死に至る。 

7月25日 願っても願っても死は訪れない。身体の病気になって可哀想でも生きようとめげないひとが最高だ。温かい周りに囲まれて、結局死ねるんだから。 

7月26日 自分はいつか幸せになれるのだろうか。未来が見えない。暗いトンネルを、いつまでもさまよっている。ずっと抜け出せない。 

7月27日 死にたい、死にたい、死にたい、君の代わりにいつでもなりたい。 

7月28日 夏の星は、ここからでも少しは見える。ただ生きそのままで光を放つだけなのに

なんにも考えずに生きて、愛されるような弱者を恨めしく思う自分が醜い。君も僕からしたら

、そう見えるんだ。言うべきじゃないことだよな。

7月29日 星になりたい。暗い夜空で誰にも見つけられない小さな星でもいい。僕は死のこと

を考えずに、輝いていたい。

7月30日 愛と、金と、健康。どれも幸せなはずなのに、どれかひとつだけしかなかったら幸

せではなくなる、この世の不可思議な在り方。 

7月31日 これで君が僕のことを嫌いになって、僕が絶望して死ぬのを止めるためだけにノートを続けるなら、僕はそれはしたくない。君の荷物になりたくないから。 

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