第五話
若葉翠は深黒青が何よりも嫌いだった。死にたいと屋上から飛び降りようとした時に、勝手に助けられた。
ありがた迷惑でしかなかった。どうせ独り善がりな善意をばら撒く、気持ち悪い豚おっさんだった。また善人のフリだけをして、飽きたら虐めてくる敵だった。何度試そうとしても、深黒に邪魔された。一人にして欲しいのに、勝手にやりたくもない英雄にされた。
最年少記録を更新したなどと、カメラを持った大人に何度も追いかけられた。嫌だった。この状況から抜け出したかった。その時にいつも深黒を恨んだ。この手で滅多刺しにしてから、人の尊厳を失くすまでやり返したかった。その深黒がランキングで最下位と知った時には、心の底から笑った。偉い人ぶって色々言っていたくせに、本人は何の価値もなかった。
深黒に会うごとに虐めた。少しでもあの鉄の顔が自分を恐れ、嫌がるのを見たかった。なのに、何も変わらなかった。二階から水をかけても、靴に画鋲を入れても。血が流れていても、顔色一つ変えなかった。仕舞いに大嫌いな口だけ煩い、会長に呼ばれた。
深黒の話をされたが、何一つ響かなかった。訳の分からないライトノベルの設定でも聞いているようだった。自分の小説の自慢話をしたいのなら、別の人にして欲しいと若葉は思った。ただ深黒以外には良い子にしているので、タイミングの良い所で相槌を打っていた。誰もが騙されるのは、見ていて何とも気味が良かった。自分以外の誰もが馬鹿だった。ただ少し年上の鋭い犬のような火夜には勘付かれそうになった。
若葉は能力があるのに何もしない、深黒が更に嫌いになった。自分だけ働かせておきながら、何しないおっさんなど老害も良い所だった。
「働け、馬鹿深黒」
と、耳元で叫べば火夜に力強くで止められた。
口を勝手に押さえられたのを許すつもりがなかった。全てはやはり、深黒のせいだった。深黒は許されるべきではない、悪だった。
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