第四話

 火夜真琴は通知が鳴り止まない、携帯の電源を切った。火夜は後悔などしていなかった。


 本気で確実に毒殺するための毒を準備していた。だが、どこかで情報が漏れたようでマスコミにバレた。


 散々英雄として褒め称えていた集団が、今度はころりと後ろ指を指してきた。最初から仲間ではなく、向こうは使えるから追っているだけだった。世の中、都合良く行くことが少ないのだった。火夜は溜め息をした。



 恩返しのためにも、火夜はどうしても殺したい人がいた。全てを懸けてでも殺さなければならない人がいた。


 現実に囚われ続けた、命を救ってくれた大恩人。深黒青。


 火夜は深黒の表情が変わったのを、見たことがなかった。常に表情が抜け落ちていた。もうこの世界に救いを見出だせていなかった。


 最初に会った時もホームから転倒し、落ちそうになった時に深黒が既の所で手を差し伸べた。火夜は何度も感謝したが、深黒は火夜をそもそも見ていなかった。火夜を通り越し、遠いどこかを眺めていた。


「自分が助けた訳ではない。能力が助けただけだ」


 それだけ言うと火夜の前から姿を消した。良く分からずに戸惑っていると、数カ月後の能力者試験で能力者であると判明した。


 それも世界英雄協会の会長、アルビン・エレストと同じ超級能力と知った時には心臓が飛び出しそうになった。そのままエレストと面会することになり、出会って最初に火夜は聞かれた。


「ある男に助けられたのではないか?」


 火夜は力強く頷いた。するとエレストは優しい笑みを浮かべてきた。まだ若い火夜からすれば、近所の猫を愛するご老人のように見えた。最初に部屋に入った時の怖いオーラが消えていた。


「私も彼に助けられた身なのだ。もし良ければだけど、彼のことを少しでも気にかけて欲しい」


 と、言われ火夜の英雄としての日々が始まった。


 当時最年少の高校生で英雄となり、英雄としての活動を進める中で火夜は深黒について情報を集めた。ただ答えが知りたかっただけだった。何故深黒がいつもあのような表情なのか。


 過去に何があったのか。そして、すぐにその答えは火夜の前に並べられた。全ては深黒青の呪いのような能力のせいだった。火夜は携帯を強く握り締めた。更に力を入れれば携帯を炎で消し炭にしてしまいそうだった。


 あんまりだ。あんまりにも酷い。火夜は答えを知った時にそう思った。世界の真実を何一つ知らず、生きていた自分を恥じたくなった。余りにも深黒は報われなさ過ぎていた。


 深黒は世界が崩壊しないよう修復する能力を持っていた。修復したくないとしても、世界は勝手に何度も崩壊するので深黒は強制的に能力を使わされた。最初は家族が代償の生贄にされた。妻子の肌に黒い模様が現れ、日に日にそれは広がり、激しい痛みを襲うようになった。痛みで動けなくなり、麻酔もどのような薬も効かなかった。


 最後は痛みで何も喋れずに、全身を震わせ続けるだけだった。深黒はそのような姿を見ることが出来なくなり、妻子をその手で殺した。家族を苦しみながら死なせたくないからだった。だが、代償は次に深黒から死を奪った。


 深黒は何度も死のうと試すが、一度も成功したことがなかった。そして、世界を修復する中で世界を直すために必要な、後に英雄となる者を救っていた。


 だが、救われた者以外何も分からないので、深黒の能力はランキングで最下位となっていた。火夜はただ深黒青を解放したかった。深黒家だけが苦しむのはおかしかった。そのような世界での幸せなどいらなかった。そのようなことでしか生きられない方がおかしかった。


 だから、火夜は致死性の高い物を聞けば買い付けた。何でも深黒に送った。それは他の助けられた英雄も同じだった。

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