クリスマスアドベント〜奇病少女と死にたがり少年〜

深崎藍一

プロローグ

十八歳のクリスマスの日。僕は死ぬことにした。


 眼下に広がる、クリスマス特有の浮かれた雰囲気の街は、底抜けに明るい。その光景が僕には、人の目が受け入れられる容量を超えたみたいに思えた。目がチカチカした。


 光から目を背けるように、僕は横に並んで立つ湖凪さんの横顔を盗み見た。彼女は、瞬きをしているかも怪しいほどに、街を眺め続けている。海が近いこの街特有の潮風に乗って、高台にいる僕たちへと、街の騒めきが微かに聞こえてくる。


 そんな聖夜の煌めきも、気分を高揚させるはずの人の声たちも消え失せるほど、僕は湖凪さんから目を離せない。


 僕の愛おしい人の装いは、背後に悠々と広がる夜景と同じ黒を基調としているのに、ポツンと一人だけ浮き出たように見えた。それは、僕の視界のピントが湖凪さんにしか合わないようになってしまったからなのかもしれないし、蝋燭の火が消える寸前に一番美しくなるように、命を散らす寸前の湖凪さんがこの街で一番美しいものだから、機械的な灯りが兜を脱いだのかもしれない。


 奇病。湖凪さんを蝕んだそれは、随分ときちんと死を迎えさせる、潔癖なやつだ。だから、一分一秒違わずに、僕らは夜景の中に溶けていくことができると思う。まるで、十二月に入ってからクリスマスを待ち望んで、今がピークの街を体現するみたいに。明日になればセール品になって見向きもされない、今日限りの心踊るサンタ付きのケーキみたいに。


 ちょうど一年前、クリスマスに出会った僕らの前提として存在した終わりの時間まで、もうすぐ。

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