会合

数日の間、露店を出さずに香水を作っていた。

調べるにしても、その香水が必要だ。

この香りを嗅ぐ度に、彼女のことを思い出す。

そして、彼女の死を暴いても良いのか迷った。


僕のために調べているのだから、彼女は嫌がるのではないか。

彼女は、どうして相談をしてくれなかったのか。

調べることで、僕の疑問が晴れるのか。


何も分からない。

知るべきなのかさえも、分からない。

ただ、知って後悔する方が許せるように思う。


数日が経って、探偵から連絡が来た。

男性の情報をまとめてくれたようだ。


写真を見せてもらうと、その人には見覚えがあった。

彼は、フリーマーケットで連絡を交換した。

そう言うと、探偵が言った。


「連絡を取りましょう。話をするべきです」

「…。わかりました。でも、何を話せば、何を言えば良いのでしょう」「その時、なにか話されませんでしたか」

「この香水の話を、しました。売るとなったら教えてくれと」

「では、売りましょう」


売る、この香水を。彼女の香水を。

僕の手が冷え、息が上がる。

彼女の死を、知っていたのに。

平然と話をしていた。

彼女の話をしていた。


そんな、犯人かもしれない人物に香水を売る。


どうして、この香水を欲しがった。

どうして、連絡先を交換した。

関係者だと、分かるかもしれないのに。


末恐ろしい、そう思った。



彼と待ち合わせをした場所は、街中の喫茶店だ。

人がよく来るお店にした。

彼は、地域の指定だけした。


なぜかそこは、彼女の家の近くだった。


今から会う人物は、殺人犯かもしれない。

次第に、体温が下がって手が震える。

強く手を握りしめ、香水を鞄に詰め向かう。

前は輝いて見えた道が、今は、重く沈んで見えた。


喫茶店には、僕が先に着いた。

彼は、僕に気が付くと手を挙げて会釈をした。


僕は、彼が悪い人には見えない。

それは疑念が生まれた今も、そう思う。


彼は席について、注文をする。

僕はそれをじっと見ていた。


「香水、作ってくださるんですね。ありがとうございます」

「はい、お渡しする条件をつけてもいいですか」

「条件、ですか。…わかりました」


探偵の方と相談して決めた、条件。

情報との交換だ。欲しい情報は2つ。


・なぜこの香水を欲しいのか

・彼女の死を知っているのか


そう伝えると彼は、微笑んで頷いた。

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