「その話をするなら、少し場所をかえさせてください。もちろん、危害は加えませんよ」


本当に、彼は関わっているのか。

僕はどこかで、彼が関わっていないことを望んでいたのかもしれない。

僕の顔を見て、彼は少し眉をひそめた。


「あなたは、全てを知る権利がある。だから、見てほしいことがあるんです」

「見てほしい、ことですか。今からまた、何かするんですか」

「僕が何かをするわけではないですよ」


信じてもいいのか。今じゃないと、話を聞けないかもしれない。

また、僕は迷っている。

彼は、僕をじっと見て様子をうかがっている。

僕の決断を待ってくれている。


「行きます。見せてください」


そう言うと、彼は席を立ち案内をすべく動き出した。



歩きながら、彼は話をしてくれた。

本当に、何かを見せることを目的としているようだ。


話は、彼自身の過去だった。

彼は教師をしていた。

ある日、少年が相談をしに来た。

クラスでいじめられている。

先生に相談したことを、ばれてはいけない。

特別扱いをしても、反感を買うだけだ。

だから、秘密裏に動くことにした。

だが、少年の親が動いてしまった。

上に話がいき、市まで動いた。

大事になっていく中で、僕に白羽の矢が立った。


全て僕の責任になった。


僕と少年が、必死につかもうとした結末にはなりえなかった。


「もう、僕はあの子を手伝うことしかできませんでした。

あの子は今日、死ぬそうです」


そう言い、彼は上を指さした。


そこには、少年が立っていた。

少年は、飛び降りるだろう。誰が見てもそう思う光景だった。


「これは、僕らが望んだことができなかった結末です。

大人の都合に巻き込まれた、1人の少年が選んだ未来です」


彼がそう言うと、遠くで水のはじける音がした。

僕はこの光景を、忘れることはないだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る