動く

まず僕がしたのは、お店を休業にすることだった。

調香師が居なくては香水の生産、調整ができない。

販売員には有休を出して、その手続きをする。

お客様方も困る可能性があるため、連絡をしていく。

数日の間、お店は忙しくなったがこれで動くことが出来る。


彼女と僕はあくまで恋人の関係で、身辺整理は家族がすることになっていた。

手伝いや僕の私物を受け取りに、彼女の家に向かう。

その時、調査に使えそうなものはコピーしたり、写真に撮った。

これで、調べ始めることが出来るだろう。

そう思い、探偵事務所を探し向かった。


彼女に自殺、香水について、警察の動向を話していく。

「なるほど、わかりました。では、依頼内容についてですが」

そう言われ、僕は固まった。


僕は、何を調べて欲しいんだろう。

何を知りたいんだろう。

探偵の方と話し、知りたいことを考える。


・彼女が自殺した理由。

・本当に、自殺だったのか。


分からないことが多すぎて、これだけで良いのか僕には分からない。

だが、その2つの調査を探偵に依頼することにした。

調べて貰っている間に、自分も動こう。

この香水は僕しか作っていない。

犯人は香水まみれになった部屋にいたんだ。

部屋を出たあと、この香りをまとって歩いているはず。


だから、この香りを手立てに聞き込みをしよう。


警察や探偵ではない僕が話をするのは怪しいだろうから、露店を開く。

そこで、新作のサンプルにあの香水を入れて聞いていく。


それなら僕が聞いても不思議では無いだろう。


露店の準備をしながら、近辺で行っているフリーマーケットにも参加する。

フリーマーケットは、様々な客層で聞き込みにはもってこいだ。

販売の申請を行い、場所を確保する。

フリーマーケットだから、通常より小さい瓶にして少し安く販売しよう。自社製品と新作を並べる。

限定と書くと、目に留まりやすい。

人の心理は巧妙だと思いながら、商品を説明し販売する。


「いらっしゃいませ」

「この香水は、販売していないのね」

「えぇ、まだ試作段階でして」

「そう、じゃあ別のにしようかしら」

「ありがとうございます」


そういう会話を何度もしたが、一向に知っている人は来なかった。

露店の許可が降りるまで、これで探すしかない。

そう思っていた時、この香水を匂い固まった人が現れた。


「この香水って売ってないんですか」

「はい、一度も販売したことは無いです」


そう言うと、彼は驚いた顔をして、嗅いだことがあると言った。

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