パンツは嘘をつけない

ノゾムはチノに聞き取りを始めた。ルエルが呪いのズボンを履かされた日何か変わった事はなかったか。

「ルエルさんが部屋に引き篭もったのは四日前です。その日の練習が終わった後疲れたからと直ぐに部屋に帰りました。そしたら夕食にも出てこなくて、寝てるかもしれないからってその日はそのままにしていたんです。翌日の朝になってもルエルさんは部屋から出てこなくて、心配した座長が部屋を訪ねるとルエルは呪いのズボンを履かされてて、部屋から出たくないって泣いてたそうです」

「なるほど、ルエルさんの部屋には誰でも入れるのですか?」

「一応三階は女性、二階は男性って部屋分けされてますが、宿舎の中は劇団ならどの階も出入り自由です。ルエルさんが鍵を掛けてなければ誰でも部屋に入れます。私もよくルエルさんの部屋に行ってお喋りしてますし」

「そうですか、部屋の位置は通り側に面してますよね?」

「はい、ルエルさんの部屋はそうです」

「なら窓からの侵入は通行人に見つかる危険性があるか……」

 どうやら犯行は誰でも可能で絞り込むのは難しい様である。キャミーはルエルのファンである為我慢が出来ず口を挟んだ。

「何か恨んでるとか嫉妬してる人はいないのですか?ほら主演だし、その役を狙ってる踊り子とかもいるはずでしょ?」

「ルエルさんは今は気が立っているので荒れてますが、いつもは優しくて本当にいい人です。進んで雑用もやってくれるし、部屋に篭る直前の練習も私が転びそうになった時に支えてくれたんです。ルエルさんを恨んでる人は劇団にいないと思います。それにルエルさんの役も踊りが難しいので誰にも真似出来ませんし」

「そっかー、うーん」

 キャミーも事件解決を手助けしたい様でキャミーなりに悩んでいる。

「ルエルさんは寝ていたので犯人は見てないって言ってますし。どうしたらいいでしょうか」

 チノはどうする事も出来ない自分にもどかしさを感じている様である。

「ならその呪いのズボンの出どころを調べましょう」

「あ、そうか、ズボンを誰が持ってたか分かればそいつが犯人ですもんね、それなら街に怪しい呪物を取り扱ってる店があるのでそこに行ってみましょう!」

 キャミーもノゾムの考えに納得した様で立ち上がり出掛ける準備を始めた。チノは少し申し訳なさそうな顔をしているがノゾムも出掛ける気である。

 数分後準備を終えた二人はチノと一緒に呪物店に向かった。


 呪物店の外観は思いの外普通で他の店となんら変わりはなかった。ただショーウィンドウから見える人形や剣は禍々しいオーラを放っており通行人も少し避けて歩いていた。

「昼間にここら辺に来た事はありますが夜になるとより雰囲気が出ますね」

 キャミーは自分で呪物店に連れてきておいて尻込みをしている。チノも怖がって入りたくなそうである。そんなキャミーとチノにお構いなくノゾムは店の扉を開けた。

「えっちょっとご主人様!」

 慌ててキャミーも中に入り、チノも覚悟を決めて後を追った。

 中は混沌を極めていた。店の壁や天井に怪しい数々の呪物が置かれており、ここにいるだけで呪われてしまいそうであった。

「いらっしゃいませ」

「ひぃ!」

 奥から怪しい老人が出てきた。その声にキャミーとチノは悲鳴を上げてしまった。

「そんな怖がらんでも大丈夫じゃよ。ひっひ」

 老人は安心させようしているが笑い方も怪しくキャミーの顔は引き攣ってしまった。

「夜分遅くにすいません、こちらの店で呪いのズボンは扱っていますか?」

「おや、あんたらもかい?最近流行ってるのかね?」

「と言う事は最近誰かがそれを求めて訪ねてきたのですか?」

「まあ、そうなるな。ほれこれだよ」

 老人は棚からズボンを取り出した。それはルエルが履いていたズボンと柄が少し違う程度で同じ様なダサい代物であった。

「あ!これです!」

 チノも思わず声を出すほど似ているダサいズボンである。ノゾムは気にせず聞き込みを続ける。

「その呪いのズボンを最近買った人の事を覚えてますか?」

「四日前かの、夜にのフードを被った女がやってきて買っていったよ」

「その人の特徴って分かりますか!」

 チノが食い入る様に老人に質問した。

「いやーフードで顔を隠してたから分からんな。体格と声で女だと分かったが」

「そうですか」

 チノは肩を落として残念がってる。

「でもその女は足を怪我してる様で歩き方が変だったなぁ」

「怪我ですか。ありがとうございます、それは重要な証言です」

 ノゾムは老人にお礼を言った。二人が老人と話している間にキャミーはズボンを手に取り眺めている。

「この呪いのズボンいっぱいあるんですね。髑髏柄もあるし」

「さっきからそれの事を呪いのズボンって言っとるがそんなもんじゃないぞ」

 老人は冷ややかな目でキャミーに教えた。

「確かにそれは履いたら脱げなくなるズボンじゃが、便所や風呂に行けば普通に脱げる様になってるんじゃ」

「え!古代の呪物じゃないんですか!」

「そんな物軽々と売っていい訳ないだろう。それは子供が悪戯で使うもんじゃ。そんな品の無い花柄のズボンが古代呪物な訳あるか」

「確かに」

 キャミーは最近衝撃的な事がありすぎて感性が麻痺していた。普通に考えれば古代呪物の訳がない。

 そんな二人の会話をノゾム静かに聞いていた。何か考え込んでいてピクリとも動かない。

「それでそのズボンを買ってくれるのかい?」

 老人の催促にノゾムが答えた。

「すいません。聞き込みをしていただけなので。また機会があればその時にでも。お邪魔しました」

「はいはい、またのお越しを」

 ノゾムは老人に謝罪して店を出た。キャミーとチノが後から店から出るとノゾムはまたジッと動かず考えていた。

「ご主人様?何か分かりました?」

「うーんどうだろう。チノさん、劇団に足を怪我をしている女性はいますか?」

「いえ、いません。隠していても歩き方を見れば直ぐにバレると思います」

「えーそれじゃあ犯人は劇団の人じゃないんですか!どうやって見つけるんですか?」

 キャミーは半ば諦めかけていた。ガックリと肩を落としで残念そうな顔をしている。

「いや、犯人探しはもういい。それよりチノさんには用意して欲しい物が」

「なんでしょう?」

 チノはノゾムの言葉に耳を傾けた。用意して欲しい物、それは意外な物であった。


 チノはルエルの部屋の前にいた。ノゾムと別れた後直ぐにやってきたのだ。チノはバスケットを持っている。

「ルエルさん、チノです。お話があります」

「何?犯人が分かったとでも?」

「はい、そうです」

「そんな訳ないでしょ!いい加減にして。私は部屋に引き篭もるからご飯だけ持ってきてくれたらいいから。私に構わないで!」

「もういいんです!ルエルさん!」

 チノは扉の前で叫んだ。

「もういいって……どう言う事?」

「ルエルさん、足を怪我してるんですよね」

「……」

「私が踊りで失敗して支えてくれた時に怪我をして、私が責任を感じないようにそうやってずっと隠してくれたんですよね。ズボンが脱げないとか、怖くて部屋から出れないとか」

「だとしたら?」

「ルエルさんの気持ちは嬉しいです。でも私は明るくて優しいルエルさんが好きです。演技でも辛く当たるルエルさんは見たくないんです。ルエルさんが部屋から出てこないなら無理矢理部屋に入ってお世話します!嫌だって言っても知りません!」

 チノが廊下で騒ぐのであっちこっちの部屋から劇団員が顔を覗かせた。

 なんだ、なんの騒ぎだと廊下が騒がしくなる。

 その時ルエルの部屋の扉がゆっくりと開いた。ルエルは扉の縁に掴まり片足で立っている。右足首は赤く腫れており見るだけで痛そうである。

「夜中にうるさいよ。早く部屋の中に入りな」

「ルエルさーん!」

「だからうるさいって!」

 チノは部屋の中に入りバスケットの中に入れてある湿布をルエルの足首に貼り包帯を巻いている。

 ルエルはベッドに座り足を伸ばしチノの処置を見ていた。

「ごめんよ、心配かけたね」

「いいんです、これからは私がずっと側にいて介護します。それで早く治して一緒に舞台に立ちましょう」

「そうだね、本当はそれで良かったんだよね」

 チノは泣き、ルエルは微笑む。そんな対照的に二人だが心は憑き物が落ちた様に晴れやかであった。


「何でルエルさんの自作自演で分かったんですか?」

 屋敷でキャミーはノゾムに疑問をぶつけた。

 ノゾムはキャミーと少し遅めの夕食をとっている。ノゾムはナイフとフォークの動きを止めて答えた。

「当然の事だけど誰も入れない部屋があるなら、犯行は部屋の中の人間にしか出来ないんだよ」

「じゃあ最初からルエルさんを疑っていたんですか?」

「いや、容疑者の一人程度だよ風邪のふりをしているのに濡れた布を使った痕跡があった。あれは足を冷やしてたんだろうね。そういう違和感から少しずつ店主の聞き込みを経て確信に変わって言ったんだよ」

「ご主人様は色々は色々許し難い所はありますけど、やっぱり凄いですね」

「ありがとう。それにパンツは嘘をつけないからね。どんなに自分を演じてもパンツはその人の内面を表すのさ」

「あー分かりました、多分そうですね」

 それからキャミーは黙々とご飯を食べ始めた。これがあるからキャミーはノゾムを慕う事が出来ないのだ。

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暴け!パンモロ探偵の異世界迷推理 なぐりあえ @79riae

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