呪いの解除もパンモロで
チノと名乗った女性の案内の下、ノゾムとキャミーは何処かに向かって歩いていた。
チノは二十歳くらいの可愛らしい女性で茶髪の長い髪を後ろで結んだ平民である。服は青いワンピースを着ており、平民ながらもしっかりと身だしなみは整えられていた。
「それで何でパンモロをして欲しいのですか?」
ノゾムはチノの依頼について質問した。パンモロは諸刃の剣である。犯罪に無関係の者にパンモロするとノゾムが捕まってしまう可能性があるからだ。
「ノゾムさんは呪いの装備ってご存知ですか?」
「呪いの装備?聞いた事は無いですね」
「そうですか、なら説明いたします。呪いの装備は古代呪術によって呪いを施された物で、それを身に付けると呪いによって様々な悪影響が出るんです」
「その様な物があるんですね。キャミーさん知っていましたか?」
「はい、でも呪いの装備って神殿に行けば解除出来るのでは?」
「それが今回呪いの装備を身に付けている方が問題なのです。その方は踊りの子ルエルと言います」
その名前に反応したのはキャミーであった。
「ルエルってあの劇団パンストの?」
「はい、劇団パンストの踊り子、ルエルです」
キャミーは腕やら足をバタバタさせて喜んだ。
「そんな有名なのかい?」
「そうなんですよご主人様!劇団パンストはこの街一番有名な劇団で、ルエルさんはそこで主演を張ってる踊り子なんです!私だって一番安い席の立ち見で二回しか見た事ないんですよ!」
キャミーは興奮してフンフンと息を荒げている。
「私も劇団パンストで踊り子をしています」
「そうだったんですか!後でサイン下さい!」
チノは困った顔をしている。ノゾムは一旦キャミーを落ち着かせて話を戻した。
「それで何でそのルエルさんが問題なんだい?」
「そのルエルさんが身に付けてる呪いの装備がダサいんです」
「は?」
思わずキャミーは大きな声を出してしまった。ダサいとはなんぞや。
「ルエルさんは自分に厳しい方でその身なりにも細心の注意を払っています。しかし誰かが非常にダサい呪いのズボンを夜中ルエルさんが寝ている時に履かせたんです。ルエルさんはそんなダサいズボンを履いている姿は誰にも見られたくないと部屋から一歩も出ないのです」
キャミーの先程までの興奮は何処へやら、チノが言っている内容が全然頭に入らず黙ってしまった。
「なのでこの事を知ってるのは私と座長だけで、みんなには風邪を引いて寝込んでると誤魔化してます」
「チノさんは何でハンターギルドに?」
「ルエルさんが出歩かなくても呪いを解除できる物をハンターギルドで探してもらおうと思ったんです。そこでノゾムさんを見かけて声を掛けました」
チノの説明を聞いている間に劇団が持つ宿舎に着いた。中々立派な建物で外観から三階建だと分かる。壁には劇団のポスターが貼ってあり、一ヶ月後に新たな演目が公演される予定になってる。キャミーはポスターを食い入る様に見ている。
「ルエルさんは三階の部屋に居ます。今は劇団員は練習中なので玄関から入っても大丈夫です」
「ほら、キャミーさん行きますよ」
「あっすいません!」
三人は宿舎の中に入っていった。キャミーは落ち着かずにキョロキョロと見回して何か見つけるたびにバシバシとノゾムを叩いていた。
「ところでチノさんは練習に参加しなくてよいのですか?」
「私はルエルさんと踊る役なので、ルエルさんがいないと練習にならないんですよ。だから私がルエルさんのお世話をしてるんです」
「なるほど」
ノゾムの質問にチノは小声で答えた。練習してると言えど警戒しいる様だ。そして階段を上り切り、三階の一番奥の部屋の前に着いた。
チノは扉をノックしてルエルに呼びかけた。
「ルエルさん、チノです。呪いを解除出来る方をお連れしました」
すると扉の向こうから声がした。
「本当なの?本当に解除出来るの?」
「えっと多分出来ると思います」
「どっちなの!」
「出来る可能性はあります」
二人の会話にノゾムが割って入った。
「すいません、私の名前は下木ノゾムと言います。呪いを解除出来るか分かりませんがどうか少しだけでもお時間を下さい。チノさんはその為にハンターギルドに行ってあるかも分からない呪いを解除する道具を探しに行きました。どうぞここはチノさんの頑張りに免じて開けて下さい」
「……」
少しの時間を置き扉がゆっくりと少しだけ開かれた。扉の隙間からルエルが顔を出してた。
「入って、中で見た事は誰にも言わないのよ」
「分かりました。誓います」
「私も誓います」
ノゾムとキャミーはルエルと約束をして部屋の中に入れさせてもらった。
部屋の中は広くどの家具もオシャレに統一されており、宿舎とは思えない豪華さを誇っていた。病人として振る舞う為の小道具なのか、ベッドの近くのテーブルは少し濡れており水桶と濡れた布が置いてあった。
部屋の中に入るとルエルが壁には寄りかかりながら睨んでいた。
ルエルは長い金髪に健康的な引き締まった身体をしており、その顔は劇団の看板に相応しい美しさだった。下着の上には簡素な部屋着を着ているだけなのにその魅力は衰える事は無かった。
しかし下を見るとルエルとは不釣り合いな足先まで隠れるダボダボのズボンを履いていた。柄もどぎつい花柄で色も原色そのままを使っている様な品も風情もセンスのカケラも無い、ひどいズボンを履いていた。
そのダサさはルエルの美貌を持ってしても打ち消せない代物であり、憧れのルエルに会えたキャミーでさえもそのズボンを見て何も言えなくてなっていた。まさに絶句である。
「それでどうやってこのズボンを脱がしてくれるの?このズボン紐もないのに腰で硬く締まってて全然脱げないんだけど。ほら」
ルエルは明らかに不機嫌そうだ。確かにこの様な姿を晒して機嫌が良いはずがない。そしてどんなにルエルが下ろそうとしてもズボンはびくともしない。
「もうやってもよろしいのですか?」
ノゾムは確認をとった。
「いいから、早くして」
「分かりました」
ノゾムはパンツ丸見えのポーズをとりルエルを見た。するとあれだけ動かなかったズボンがスルスルとずり落ちてあっさり脱げてしまった。
ルエルは白の可愛らしいパンツを履いており、ルエル美貌とかなり掛け離れた趣味をしていた。 「きゃああぁ!!」
ルエルは叫び、顔を真っ赤にして転びそうになりながらドタバタとベッドに行き布団に潜ってしまった。脱げたズボンは抜け殻のようにその場に落ちている。
「出てって!ズボンは脱げたから!」
布団の中でルエルは叫んだ。ノゾムは謝罪の言葉を言ってキャミーと一緒に部屋を出た。
ルエルの代わりにチノがお礼を言った。
「本日はありがとうございました。今はルエルさんを宥めないといけないので、後日そちらにお伺いします」
チノに屋敷の場所を教えて二人はさっさと宿舎から出て行った。
宿舎から出た瞬間キャミーはノゾムの背中を叩いた。
「痛い!」
「何やってんですか!突然パンモロさせるなんて!」
「でも確認は取ったし」
「布で隠すとか、目を背けるとか色々あるでしょ!」
「ああそうか、パンモロは犯罪者にしかやらないのでそう言う配慮が欠けていました」
「もう!」
帰り道キャミーはぷんぷん怒りながらずっとノゾムに注意していた。ノゾムは申し訳なさそうに謝るだけである。
その夜、屋敷を訪ねてきた人物がいた。もちろんチノである。
チノはルエルの呪いのズボンが脱げた筈なのに暗い顔をして黙っている。
「どうしたのですか?何かありましたか?」
ノゾムもその様子が気になり声を掛けた。
「ノゾムさん、いえパンモロ探偵さん、どうかルエルさんを助けて下さい」
チノは大きく頭を下げた。
「一体どうしたのかな?」
「ルエルさんは呪いのズボンを履かせた奴がいる限り安全じゃないって部屋から出てこないんです。だからノゾムさんに犯人を見つけて欲しいんです。そうしたらルエルさんは部屋から出てくる筈です」
事件は解決していなかった。呪いのズボンが脱げても妨害工作をした犯人は野放しのままである。このままでは更なる危害が加られる可能性もあるのだ。その事にノゾムが黙って見ているはずはない。
「分かりました。パンモロ探偵の名にかけて事件を解決しましょう」
「ありがとうございます!」
「何度だってパンモロさせて見せます」
「お願いします!」
チノは喜んでいるがキャミーは冷ややかな目で見ている。
――別にパンモロにこだわらんでも
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます