三話

ハンターギルドはパンモロの香り

ノゾムとキャミーは街を散策していた。この世界の常識を知る為にキャミーに解説をしてもらいながら歩いているのだ。この世界の常識はノゾムにとって非常識であり、それは探偵を生業にしているノゾムにとって致命的な弱点である。

「なるほど、主な移動手段は馬車ですか」

「そうです。この王都では乗合馬車が毎日出て色んな街に行きます」

「街中で馬車の移動はしないのですか?」

「それは無いですね。そんな事するのはお貴族様くらいです。そんなに馬車って重要ですか?」

「そうだね、人の移動時間が分かるのは重要だよ。これによって犯行ができるかできないかが決まってくるからね」

「ふーん、そんなもんなんですね」

 キャミーは事細かく聞いてくるノゾムに丁寧に説明していた。お喋りしながら散歩するだけで王宮勤めと同じ額の賃金が貰えるのなら割りの良い仕事である。

「あの建物は何かな?」

 ノゾムが指差したのは大きな入り口に、目立つ赤い看板の建物である。

「あーあれはハンターギルドです」

「ハンターギルドとは?」

「魔物の討伐とかやったり、魔物の素材を買い取ったりする所です。ご主人様には関係ないですね」

「僕に関係ない事なんて何も無いんだよ。誰しもパンツを履いてれば必ず僕と繋がりは出来るんだ」

 またおかしな事を言ってるとキャミーが呆れていると、ノゾムはスルスルとハンターギルドに向かって行った。

「駄目です!ご主人様!」

 キャミーの忠告も聞かずにノゾムは入り口のスイングドアを開けて入って行った。慌ててキャミーも後を追って入って行く。

 建物の中は人でごった返ししていた。ある人は壁にある大きな掲示板に貼られている紙を見て、ある人はカウンターで何やら職員と話しをしていて、ある人はまだかまだかと列に並びながら先頭を何度も見て、ある人はもっと高く買えと喚いている。

 ノゾムが建物の中に入ると中にいたハンター達がギロリとノゾムを睨みつけた。

 その誰もが柄が悪く腕っぷしが強そうである。手には剣を引っ提げて、大きな籠には牙やら爪やらがはみ出している。

 キャミーは自分がいかに場違いか自覚している為ビクビクとノゾムの後ろに隠れた。ノゾムは何の恐怖も抱かずに穏やかな表情をしている。

「帰りましょう。営業の邪魔になっちゃいます」

 キャミーは小声でノゾムに忠告した。しかしノゾムは興味深そうにキョロキョロと見回して一向に帰る気配がない。

 すると後ろからドスンと誰かに押されてキャミーもノゾムも前に転びそうになった。

「邪魔だ。退けよ」

 振り返るとスキンヘッドの大男が女と一緒に立っていた。大男は厳つい顔をしており頬に傷跡がついている。ゴツい肩当てをしており、腰に剣を下げている。

 女は長い金髪で目元にホクロがあり、気だるそうな顔をしている。履いている赤の靴まですっぽり覆うロングスカートと白のフリフリしたブラウスを着ていた。

「すいません」

 ノゾムは入り口に立っていた事を頭を下げて素直に謝った。

「ちっ、腰抜けが」

「そんな奴放っておいて早く行きましょ」

 ノゾムに舌打ちすると大男と女はノゾムを無視してカウンターの方へ歩いて行った。

「大丈夫だったかい?ごめんね僕の不注意だ」

「ええ、大丈夫です。転んでもいませんし」

 ノゾムはキャミーの心配をしていると奥からギルドの男性職員が出てきた。

「大丈夫ですか?何か揉め事でも?」

「いえ、大丈夫です。僕が入り口の前に立っていて通行の妨げになっていただけです」

「そうでしたか。今日はどの様なご用件で?討伐の依頼ですか?素材の依頼ですか?」

「ああ、すいません。見慣れぬ建物があったので興味本位で入っただけです。仕事の邪魔になる様なら退散します」

「邪魔な事は無いですが、ハンターギルドなので気の荒い奴が多く、あまり長居はお勧めしません」

 そう職員が忠告するとカウンターの前にある列から怒鳴り声が聞こえた。

「お前が盗んだんだろ!」

「知らねーよ。テメーが無くしたんだろ?」

「お前がぶつかってきたから落としたんだよ!」

 誰かが言い争っているようだ。

「ね?こういう事です」

「いつもの事ですか?」

「そうですね。特に今揉めてる大男は最近特に問題を起こしてます」

 盗んでいないと言っている大男は先程ぶつかってきた男である。

「止めないか二人とも!追い出すぞ!」

 男性職員は二人の下に走って行った。

 どうやら事件の香りがする。そうノゾムは感じた。

「あのーご主人様?まさか首を突っ込むつもりじゃ?ヤバい輩ですよ」

 キャミーは恐る恐る質問した。だがノゾムは探偵である。事件とパンツがあれば必ず介入するのである。

「さあね、僕が出るまでも無いかもしれないし。ただ今日もパンモロが飛び出すかもしれない、そう感じただけさ」

「パンモロが飛び出すってどういう意味ですか?」

 ノゾムは二人の争いを注意深く見守った。その目は先程の穏やかなものとは違い鋭いパンモロ探偵の目をしていた。

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