第18話 閑話休題
♢
今日も、この宙には満天の星々が輝いている。
彼らは昔、人間だった。
地上で生きていた彼らの中で、純潔で清らかな魂は死後に神々によって剪定され、選ばれた者は星となる。
生きていた頃の記憶は無いけれど、星となった彼らには自我があり、感情があった。
星々に、生きる意味など無い。ただ地上で生きる人々の営みを見守るだけ。
退屈な日々の中で、彼らは願いを抱くようになった。
『話し相手が欲しい。』
『友達が欲しい。』
『僕達と同じような存在が欲しい。』
そんな星々の願いと、神様の一粒の涙が固まってある一人の少女が産まれた。
彼女は星の子。
願いと祈りで産まれた、星々の希望の子。
そんな彼女は地上で旅をして、その果てにこの宙に戻ってきたのだ。
彼女自身が星となる事は無く、星の子は役目を終えて、ただ宙を漂う。
彼女は、世界を造り上げた世界神の頭部ノルティアに様々な話をしてみせた。
彼女が出逢った一人の男の話。
その男と、彼を決して見捨てなかった親友の話を。
「——そうして私達は船に乗って、新しい目的地を目指したんです。」
「うふふ、それはとても面白いですね。人と言うのは、いついかなる時も私達の想像を遥かに上回る。だからこそ、私は人間に新たなる可能性を見出してしまうのかもしれません。」
ノルティアはそう笑って、少女の傍らに腰を下ろす。
「クライス、という名前でしたか。彼のその後はどうなったのでしょう。」
「さあ……。私はその後ずっと寝てしまっていたので、分からないんです。ニカルに聞いてもはぐらかされるし……。でも、きっと幸せに過ごしたと思います。だって、彼の空気はとっても澄んでいて、心地よい人でしたから。」
そう笑う星の子に、ノルティアもつられて微笑む。
「そうですね、きっと。」
この世界は神々が創った。
けれど、その先の未来を作るのは神では無く、人間の役目だ。
だからこそ、星の子とノルティアはこうして遠い遠い宙から、彼らを見守る。
決して誰かに干渉せず、決して誰かを贔屓せず。
ただ流れていく時の風に身を任せるようにして、星の子は世界を見守り続ける。
「そういえば、貴女のお話に出てきたクライスは、運命の方と結ばれたのでしょうか」
「どうなんでしょう……。でもきっと、あの人なら例え振られたとしても諦めずにまた告白すると思います。」
そう星の子は答える。
星の子の知るクライスの情報は少なくて、彼の為人を完全に理解した訳ではないけれど。
何故だか星の子はそう直感していた。
そんな答えに、ノルティアは首を傾げる。
「断られても尚、めげずに告白するのですか?……それは、時間の無駄では?そこまでして、恋愛を成就させたがるものなのですか、人間とは。」
神様であるノルティアには分からない。
断られて、振られて、それでも立ち上がって前に進む。めげずにもう一度告白して、そのもう一度を何回も繰り返す。
そこに意味はあるのかと、ノルティアは星の子に尋ねた。
彼女の疑問は最もだ。
時間の無駄と、そう思うのも仕方がない。
でも。と星の子は顔を上げる。
例えそこに光はないとしても。
真っ暗な闇の中で必死にもがいて、足掻いて、みっともなく探し続けたその光はきっとどんな宝石よりも眩く輝いているのだろう。
この宙に在る、星々のように。
「確かに無駄かもしれません。それでも人間は諦めが悪いんです。そうして人間は進化を遂げていくのだと思います。それに……私はあの二人が運命の糸で繋がれていると信じていますから。」
「……そういうものなのですか。やはり面白いですね、人間という生き物は。」
そう歓談する星の子の前には、眩い輝きを放つ二つの星があった。
仲良く身を寄せあって、幸せだと言わんばかりに強い輝きをみせる。
その二つの星に生きていた頃の記憶は無い。
それでも星の子の話に応えるように、その星達は何度も輝きを放った。
もしかして、と星の子の頭の中である二人が思い浮かぶ。
そんなはずはない。だって星となれるのは清らかで純潔な魂だけ。
星の子が思い浮かべたその二人が星になれたととしても、生きていた時の記憶は無い。
それでも、もしかして、という思いを捨てきれない。
「……良かった、通じあったんですね。」
「? 今、何か言いましたか?」
「いいえ、ただの独り言です。」
そう言って、星の子は笑う。
それはもしかしたら星の子の身勝手な願いかもしれないけれど。
でも。
——彼らは運命の糸で繋がれいるから。
だから、そんな希望を抱いてもいいのかもしれない。
そんなこ事を思いながら、星の子は次なる物語を語った。
新たに始まる、物語を——。
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