「すまない。やっぱり、僕が一緒にいたせいで」

　静まり返った会場に、彼の声が聞こえてきた。真っ青な表情で、ウェヌスレッドが謝罪する。そんな、顔をする必要はないのに。私は、慌てて説明する。

「あなたが気に病む必要はありません！　その男のターゲットは私でした。しかも、自分勝手な妄想で襲い掛かって来たのでしょう。これは、不慮の事故ですよ」

「……、でも」

　何か言おうとする彼の口に、人差し指を当てる。すると、ようやくウェヌスレッドは落ち着いた。

「ありがとうございます。助けていただいて」

「いいえ、どういたしまして。君を守れて良かったよ」

　襲い掛かってくる男の前に立ち塞がり、私を守ってくれたウェヌスレッド。その姿はまるで騎士のようで、とてもカッコよかった。

「愚息が迷惑をかけた。本当に申し訳ない」

　デーヴィスの父親である、ライトナム侯爵家の当主が謝罪しに来た。前に会った時よりも、かなり老け込んだように見える。それだけ、色々な問題で苦労しているのでしょう。

　そんな苦労をしても、婚約破棄の件では息子を処分することはできなかった。彼の気持ちが、少しだけ理解できるような気がする。それだけ、自分の子が可愛いということなのでしょうね。

　これから生まれてくる子を想うと、私もついつい甘やかしてしまいそうだ。こんな不祥事を起こさないよう、ちゃんと教育しないとダメ。問題を起こしたら、しっかり叱らないとね。

　今回の件で、私は自分の子の育て方について、考えさせられることになった。

「この愚か者を、さっさと処分しておくべきだった。君たちには、本当に迷惑をかけてしまった。この件は、必ず慰謝料を支払う」

「そこまでして頂くわけには、いきませんわ」

「いや、そういうわけにもいかない。息子のせいで、君たちに迷惑をかけたから」

　本当にすまなかった。そう言って、何度も頭を下げるライトナム侯爵。その後は、ビンタで気絶した息子を使用人に運ばせて帰っていった。

　パーティーの主催者に、お騒がせしたことを私からも謝罪しておいた。そんな私の横で、ウェヌスレッドも一緒に謝ってくれた。とても心強い。

「どう見ても、あれは君たちの方が被害者だった。だから、謝る必要はないよ」

　主催者の人は、事情を理解しながら同情してくれた。その優しい言葉に感謝する。

「それでは、私たちも失礼しますね」

　彼と一緒に挨拶して、その場を去ることにする。その日は、体調を心配してくれるウェヌスレッドに付き添われて屋敷に帰った。

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