俺は花乃と背中合わせになり、後ろを守る。案の定、後方の地面が破裂。毒々しいまでに緑色の大顎が噴出、凄まじいスピードでこちらに向かってくる。

 俺は既に演算していたレベル5魔法術式【合金破城弾】を発動。ヘビーアロイの大型弾丸が空気を引き千切って射出。植物の顎に着弾すると、根元の辺りまで巻き込んで一瞬で吹き飛ばす。

 幸いにもこの深緑の大顎は、強度自体はそれ程でも無いらしい。これならレベル3術式で充分に対処出来る。


 俺の背後でも爆音が連続する。花乃が襲い来る植物を爆裂術式で薙ぎ払っている。

 俺の前方から更に生えてきた植物に、引き金を引いてレベル3魔法術式【咬変乱牙】を叩き込む。植物の周囲の地面に魔法陣が展開し、組成に干渉。地面は返しの付いた大棘に姿形を変え、巨大植物を突き穿ち、その場に縫い止めた。


 その時、ヘッドセットに着信。生存者捜索に出ていたウィルヘルムだ。


『こちらトリガー3、体育館棟で生存者を発見。負傷はしているが命に別状は無い』


「マジかよ……!」


 この惨事の中、生き残った者がいたのか。

 このレベルの魔素汚染に対して耐性を持っているのならば、MWAにさえ適合出来れば『魔砲使い』になれる可能性が高い。ただでさえ人命は貴重だが、それ以上に希少な生存者だ。

 驚愕しつつ、またも地面を割って襲い来る植物の大顎に対し、レベル3魔法術式【延操鎖刃】を発動。銃口の先に展開された魔法陣から、鉄製のビクターチェーンを射出。その先端には、刃渡一メートルのチタン合金の刃が繋がれている。

 俺は銃を握った右腕を袈裟、真一文字、逆袈裟と振るっていく。その動きに連動し鎖が躍動、チタン合金の凶器が襲いかかる。爬虫類似の植物を膾斬りにする。


『そちらと同様、こちらにも巨大植物の触手が多数出現しているが、一々相手にしなければ振り切るのはそう難しくないだろう』


「わかりました。トリガー3、こちらでもっと暴れて魔女の注意を惹きつけます。その間に生存者を最優先にして、怪域から最高速度で脱出して下さい』


 花乃の言葉で意図を察知した俺は、振り返らずに花乃の腕を掴む。と同時、四方八方から深緑の殺意が多数出現、畝り唸りながら俺たちに殺到。

 俺は恒常身体強化術式を両足のみに全て注ぎ込み、全開発動。その他部位の強度が疎かになるし長時間の制御は厳しいので普段はあまり使わないが、この状態であれば瞬間的にではあるが高速移動が可能になる。


 腕を引き花乃を抱え上げ、足元の地面を爆散させながら一瞬で超加速。重力に内臓が引かれる感覚。植物の大顎の群れの間を縫い、疾走。「いやん、珠緒くんたら大胆」と俺の腕の中で呟く花乃を全力で無視。砂埃を巻き上げながら急停止、体育館棟を背にして花乃を下ろす。


 一瞬俺たちを見失った植物達が、再びこちらを補足。超高速で伸長し迫って来る。しかし、俺の高速移動により包囲は突破したので、その襲撃も正面一方向からのみとなった。


「そろそろ、お顔を見せてくださいな」


 軽い調子で呟いた花乃が握る銃身の演算回路が発光、彼女自身の超高速演算を補助する為に全力で稼動している。そして花乃はリボルバーを握った右手を空に向けて掲げ、発砲。


 全長三メートルの魔法陣が一瞬で展開、超高熱の膨大な量の炎が噴き出し、まるで火山の噴火の如き光景を描き出す。

 レベル6魔法術式【劫却炎魔刀】が発動したのだ。


 プラズマ現象である炎を魔素と演算能力によって完全制御。熱の拡散を一切許さずに、全長十八メートルに及ぶ紅蓮の長大刀身が姿を現す。体育館どころか、校舎棟の高さすら余裕で超えている。


 そして、花乃の細腕に連動した巨剣が振り下ろされた。実体を持たない筈のプラズマが魔素により実体となる、という物理法則の歪んだ矛盾がグラウンドに着弾。熱波が吹き荒れる。


 剣の軌跡にいた植物たちは、無論消失。放たれる膨大な熱風で、花壇から生えていた人体が一瞬で炭化し崩壊。臓器の様な校舎表面が焼け焦げ、異臭が駆け抜ける。


 花乃が術式を解除すると、巨大プラズマの凶刃は燐光となって霧散。刀身が着弾した地面の傷跡は、主成分の珪酸がドロドロに溶解、ボコボコと音を立てて沸騰していた。

 地獄みてえな光景。


 もっと恐ろしいのが、実はこの術式、プラズマに矛盾した実体を持たせているという理論上、花乃がその気になれば連続して振り回せるという点だ。

 花乃が術式を解除せずに演算を続けて指向や拡散を完全制御、かつ周囲の被害を気にする必要なしと仮定した場合、大体十五秒くらいは行使する事が可能だろう。


 再度確信するが、魔法なんて物はやっぱり存在しちゃいけない。

 こんな殲滅術式が存在する事もその証左となるが、この位の術式なら俺でも真っ向から打ち破れると言う点、さらにはこれを直に喰らっても死なない魔法少女がいる等、インフレが過ぎる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る