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閃光と轟音。
トリガー3のレベル5魔法術式【紫電磁界崩弩】が発動。磁性体弾頭が電磁加速で射出されたのだ。爆速で着弾したコイルガンが魔法少女の上半身を一瞬で消失させるが、即座に再生が始まる。
次いで、膝を突いて照準を定めたトリガー1のレベル5魔法術式【豪炎火竜舌】が発動。純酸素バーナーの要領で紅の魔法陣から吐き出された三千度近い超高温の火焔が魔法少女を飲み込み、焼き尽くす。
「いだぁぁぁぁぁいぎひひひひゃひゃひゃ!!」
世界を呪う様な絶叫と哄笑。肉を焼かれながらも再生する魔法少女が宙に向け飛翔。紅蓮に包まれたまま右手を天に掲げると、十メートル級の魔法陣が展開。
術式発動前だというのに、辺り一帯に合成甘味料の香りが一瞬で充満する。魔法少女の周囲の空間が魔素で満たされ、毒々しい蛍光ピンクに染まり始める。
魔法の最奥、レベル7級魔法術式が来る。
だが、いかに魔法少女と言えど発動までに数瞬の間がある極大魔法よりも、俺が演算していた術式のほうが速い。
「いい加減……死ね!!」
演算でギシギシと軋む脳神経の痛みを歯を食いしばる事で堪えつつ、グリップを握る右手を左手でしっかりと支え、引き金を引き絞る。破裂音と共に排莢、銃口の先に全長六メートル大の魔法陣が現れる。
高さ五メートル、長さ十二メートルの螺旋円錐が一瞬で出現。禍々しく輝く先端が魔法少女の全身を押し潰すかの様に深々と貫く。
レベル6魔法術式【大愚連螺旋突】は、ハイス鋼の巨大ドリルを顕現させ、対象を貫く殲滅術式だ。レベル6という高負荷魔法術式ではあるものの、材質を任意に変更する事が可能で、ある程度は自身へのダメージコントロールが出来る、取り回しの良い術式だ。
万全であればタングステンハイス鋼で精製するところだが、今の肉体にその負荷がかかると後を引くので、モリブデンハイス鋼にコバルトを加えた物を使用した。
無論、この術式は貫くだけでは終わらない。
轟音と火花を撒き散らしつつ、魔素を動力源に巨大ドリルが高速旋回を開始する。先端に貫かれている魔法少女が一瞬で挽肉に変わる。
血煙が上がり、魔法少女が再生、再びドリルが粉砕。か細い指先に魔法陣が灯るも、螺旋円錐の高速回転が骨肉ごと喰らい尽くしていく。出血したそばから増血魔法が発動しているらしく、鋼色のドリルがみるみるうちに粘り気のある鮮血で染め上げられていく。
「血と脂肪でドリルが鈍る前に、俺の術式ごとぶっ放せ!」
俺が叫ぶと同時に、トリガー1が隣にスライディングで滑り込んでくる。大型拳銃の先端には既に大型の魔法陣が展開、演算回路の煌めきと共に撃鉄が落とされる。それも、四度。六発装填の残弾全てを打ち尽くす。
レベル6魔法術式【六爆鏖砲】がまさかの四重発動。花乃の異常な適性と演算能力が可能にした荒業。四回分のヘキサニトロヘキサアザイソウルチタンが同時に炸裂。
轟音に轟音が重なると、寧ろ無音になるらしい。瞬時に恒常魔法術式で聴覚保護を強化しておいて本当に良かった。目の前に核弾頭でも落ちたかと錯覚する様な閃光、仰角射撃にも関わらず地面が抉れるほどの衝撃波が吹き荒れた。
俺のドリルが一瞬で爆散、地獄の爆風と衝撃の波濤が鋼ごと魔法少女を消し去る——。
——破壊の嵐が去った。巻き込まれたビルやアスファルトは消失、視界が大きく開けた。無論魔法少女の姿はどこにも無い。完膚なきまでの殺戮だ。
「あちっ」
俺の隣で花乃が呟く。大型拳銃——MWA-ヴァーミリオンの銃身が高温に至り、煙が出ている。レベル6魔法術式の四重発動という荒業に演算回路が悲鳴をあげているらしく、それに触れてしまったのだ。
強いアホは無視して、俺は前に向かって歩く。前方の空中では魔法少女が撒き散らした魔素が発光、一ヶ所に凝集していく。やがてそれは拳大の蛍光ピンクの宝石——【ジェム】となり、地面に儚く落下した。俺は銃を腰のホルスターに戻し、空いた右手でジェムを掴む。
「菓子の魔法少女討伐、ジェム回収。お疲れさん。トリガー3、合流して帰投しよう」
『了解』
左手をヘッドセットに当てて通信すると、簡潔明瞭な返答。プロセスが少なく済んで助かる。
「あー! 私が言いたかったのに!」
俺の後方で地団駄を踏み、謎に悔しがるバカは無視。抉れた路面をブーツで踏んで歩き出す。と、右腕に衝撃。花乃が緩やかに突進してきた。なんだお前は。
視線を向けると、人を殺した直後とは思えない程に柔らかい少女の微笑みがあった。アーモンド型の瞳は細まり、桜色の唇が緩く弧を描いている。
「帰ったら祝勝会ですね。三人でご飯食べましょうよ」
栗色の髪を揺らしつつ、楽しそうに言う。こんなクソッタレな仕事をこなして何がそんなに嬉しいのか、ガキの情緒はわからん。俺は右手を顔の前で軽く払う。
「まず治療させてくれ。骨イッてるわ、これ」
「そんなもん、リサさんの手に掛かれば一瞬でしょうが。何にしようかなー、ウィルヘルムさんは何が食べたいです?」
跳ねる様な歩調で歩きつつ、花乃の思考は既に食べ物に向けられている。無骨かつ冷静沈着、口数少ないウィルヘルムは意外と乗り気で、『君たちが食べたいもので良い』との返答。参加はするんだね。
内臓がちゃんと元の位置にあるのか心配になってきた。鈍痛を訴える腹部を押さえながら、俺は憎らしいほどの晴天を見上げる。
いたいけな少女を殺した実感が、酸っぱい胃液と共にじわりじわりと込み上げてくる。これだけは何年経とうと、何人殺そうと慣れない。それでも、社会ひいては国家の正常運行を守る為には殺すしか無い。そんな大義名分と緩い鈍化が、辛うじて精神衛生を健康に保ってくれる。
とりあえず、帰ろう。
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