第3話 出来損ないの孫息子
ラインの通知音
明日、孫息子が会いにきてくれるらしい
この子は孫の中でも出来損ないで
勉強はできないし
スポーツもダメ
かといって
読書が好きなわけでもなく
音楽にも興味はないようだ
小さい時から不思議な子だった
めったに泣かない赤子で
乗り物に興味を持つ年齢になっても
トイレの壁のシミを数えているような子だった
小学生の時は
担任から「いじめられているようだ」と報告があったが
当の本人はいじめに気がついてなかったそうだ
成績はいつも下の下
意気揚々と成績表を見せてくれるが
先生からは「もっと集中しましょう」と
毎年のように書かれている
数年前、なんとか高校を卒業したが
卒業式の当日まで課題を出したと言っていた
それから一年、勉強もせず仕事もせず
ずっと何もしなくて大丈夫かと
娘に問えば
「あの子はやさしい子だから」
というばかり
たしかに
一番の出来損ないだが
本当にやさしい子なんだ
年頃になれば
じじばばの家には寄りつかくなるものだが
この子だけは会いにきてくれる
携帯をこの薄いのに買い替えた時も
ラインの使い方も
この子が教えてくれた
虫がいっぱいいて楽しいからと
小さな畑の手伝いもしてくれる
ばあさんはよく
この子は農家に向いている
息子にほしかった
なんていう
たしかに
農家に向いているとは思うが
もう時代が違う
この国じゃ農業だけでは
食っていけない
社会に出て
働かなきゃいかん
でも、どこにだって悪い人間はいる
頑張ったからといって報われるわけでもない
助けてくれる人間が必ず現れるわけでもない
出来損ないで やさしくて、
やさしいから
この子が心配で仕方がない
どうしようもなくなれば
農業を教えようともおもったが
ついにやりたいことを見つけて
昨年、専門学校に進学した
どうやら性格にあっていたようで
家に来るたびに
パソコンで作ったものを
あれやこれやと見せてくれる
何がなんだか、わからないが
楽しいのだろう
孫は興奮して息を弾ませて
一生懸命に説明する
どんどん大きく
たくましく
伸びていく枝を
若さと重ねて
美しいと思った
それなのに
あと一週間で地球がなくなる
この年寄りはもういいんだ
先は長くない
週に3回、医者様に世話になって
どうにか持ち堪えている体だ
孫だけは
あの子だけは
どうにか生き延びてほしい
最後の1週間なんだから
大切な人と過ごしたり、好きなことに時間を使いなさい
と返事をしたが
「だから明日行くね」
と返してくる
やさしいんだ、この子は
一番の出来損ないだが
やさしいんだ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます