第17話:修羅降臨

「…………言い訳を聞こうか」


 リアとお祭りを楽しんで少しの間グレイシス家で世話になった数日前のこと、少しは平和に過ごしたいと思っていたけどどうやら俺は死ぬみたいです。

 にっこりと満面の笑みを浮かべたリリアさんが、その笑顔とは裏腹な平坦な声でそう言葉にした時、俺はそんな事を覚悟した。


 断罪されるのを待つ罪人のように孤児院の広間に正座されられる俺……家族の皆は今頃リリアさんが怖くて部屋に引き籠もってるだろうな。

 そんな事を思うのは多分現実逃避したいからだろう。


 結論から言えば、帰ってから謝れば俺は許されると思っていた。

 一週間帰らなかったけど、ごめんなさい――で、怒られるのは確定だけどそれだけだと思っていた……だけど、そんな俺が甘かったのだ。


 この家にノアとメルリ師匠と一緒に帰ってきた瞬間に待っていたのは仁王立ちする修羅と見間違うほどのリリアさん。


 多分だけど、その瞬間に逃げたのが不味かったのかな?

 地面から生える蔦に拘束され、俺と師匠は瞬く間に広間に連れて行かれたのを覚えている。で……師匠だけが別の部屋に連れて行かれたのが二時間前、その間俺はずっっと正座させられていてもう足が限界。


 そして、帰ってきたリリアさんに告げられたのがさっきの一言だった。


「あのノアが心配で――見に行きました」

「それなら試練が終わったら帰れば良かっただろう?」

「はい仰る通りです」

「では、何故帰るのかが遅くなったのかは……そこのカスから聞いたが、何故私を頼らなかった?」


 師匠に一度だけ視線を送り、ゴミを見るような目で見下した後でそう聞いてくるリリア様。その視線は絶対零度の冷たさを誇り、嘘は許さないという意思が感じられた。


「リリアさんに迷惑をかけられないと思って、俺一人で手助けしようと思ったからだよ……でも間違ってたなんて言うつもりないからね、ちゃんとノアは帰れたんだし」

「それは結果論だ。お前が死んだら元も子もないだろう」

 

 さてはメルリ師匠、全部喋ったな?

 リリアさんの口ぶりから今回の事全部知ってるだろうし、俺の罪は全部バレてるとも思っていい。それによく見たらリリアさんにはかなりはっきりとした隈がある……これ心配で寝てなかったんじゃないか? 素直に謝るしかないよねこれ。


 流石に一言ぐらい告げても良かったかも。


「本当にごめんなさい」

「王都に精霊を飛ばしたらノアのワイバーン討伐で祭はやっているし、クズの様子を見に行ったらグレイシス家で目覚めないお前を見つけるしで、本当に驚いたんだぞ」


 何も言えなかった。

 俺ならなんとか出来ると思って勝向かったけど、俺は周りの人の気持ちを全く考えてなかった。

 この人は優しい人だ。俺が死んだら当然悲しむだろう。


「――でもよくやったルクス。お前は守れたんだな」

「――なんて?」


 最後何かを言ったようだが、本当に小さな声過ぎて聞こえなかった。

 だけど、怒ったという感じの言葉ではなかっただろう。


「とにかく暫くは謹慎だ。それと孤児院のことを今まで以上に手伝って貰うぞ」

「了解だよリリアさん、そのぐらいはやる」

「あと魔法の練習も禁止だ。今はしっかり休め」

「え、私との至福の時間はどうなるの?」

「そこのカス黙ってろ」

「あ、はい」


 そんな事があって部屋に戻ってきた俺は、一人で今回の事を思い出していた。

 ワイバーンとの連戦に、吸血鬼との決闘。


 どっちも一歩間違えれば俺は死んでいただろうし、この場所には帰って来れなかった……本当によく生きてたな自分。

 

「うん生きてる……それに帰って来れたんだ」


 改めてそう口にしたことで実感したが、俺はノアと共に家族の元に帰って来れた。本当によかったし、色々あったけど……俺は帰って来れたんだ。


「ルクス、今大丈夫か?」


 それから少し時間を潰すように本でも読んでたら急に部屋がノックされてノアの声が聞こえてきた。


「……ノア? 入っていいよ」

「――入るぞ」


 何の用だろうか?

 ……そう思ったけど、ノアからしたら聞きたい事が沢山あるだろうし、俺これから質問攻めにでもあいそう。


「なぁ、ルクス……なんで付いてきたんだ?」

「そんなの心配だったからに決まってるじゃん」

「……でもそのせいでお前は死にかけて」

「気にするなって、お互い様だろ? お前も俺達を守るために傷付いたんだから」

「……そんなのいいのに、化物のオレがいくら傷付いたって――いてっ何すんだよ」

「え、デコピン? もしかして知らない?」


 それ以上は言わせたくなかったから俺はノアに近付いてかなり力を押さえて攻撃した。昔もこいつに化物の自分なんかにってキレられたけど……俺からしたらこいつは家族だ。そんな事言って欲しくない。


「知ってるけど急に何でだよ」

「教えない、それよりさ一緒に帰ってきたからちょっと違うけど、言うことあるよね?」

「言う事ってなんだよ」

「ただいまだよ、お前の事見送ったでしょ」

「――ッお前は、なんで……はぁ、もう。ただいまルクス」

「うん、お帰り。無事で良かったよノア」



―――――――

――――

――


 ルクスの部屋にやってきて、オレは本当は言いたいことがあった。

 オレはやっぱりここから出た方がいい、もうオレに関わらないでくれって――だって、そうすればこいつが傷付かなくて済むから。


 でも、話していて思うのだ。

 やっぱり一緒にいたいって、こんなにも優しくて真っ直ぐなこいつとずっと一緒にいたいと……何より、こいつの事を守りたいと。


 だから、オレは決めた。

 こいつが曇らないように、こいつがこいつのまま生きられるように、オレは強くなるって。


 幸い、英雄候補にはなれたんだ。

 王都最高峰の学園への切符は手に入れた。

 だからオレは、私はそこで強くなる――何処までも強くなって、英雄さえ越えて、ルクスを守る槍となるんだ。

 

「やってやる――待ってろよルクス」

「何か言った?」

「いや、なんでもない」


 これから先、どうなるかは分からない。

 でも、こいつがいてくれるならどうとでもなる気がするのだから。


[あとがき]

 残っていたデータを元に復旧が終わったので一気に更新しました。

 これで一章は終わりまして、明日から二章になります。

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