第16話:試練の終わりそして裏側


 吸血鬼――ロクトが最後に見た光景は、全力を振りしぼって魔法を放った後のルクスと、自分の腹に癒えない傷を与えた少女であるノアの姿だった。

 視覚外からの特攻攻撃であるモマンハスタ。


 それは吸血鬼の弱点である心臓を貫き、彼の命を終わらせた。

 だが、常識外の生命力を持つ彼は最後の瞬間、命が完全に尽きるまで動き続ける。

 

「――ッまだ動くのかよ!」


 それにいち早く反応したルクスだったが、次のロクトの行動に呆気にとられた。

 なんと彼は最後の力でルクスに抱きついたのだ。


「お前……そしてノアだったか? 俺を殺したんだ死ぬんじゃねぇぞ! これから先どんな敵が現れてもだ!」


 最後に送るのは激励、ノアとルクス二人に向けて心の底からそう告げた彼は続けてこう言った。


「――なあノーチェ今回の依頼は失敗だ! お前はリーダーと共に帰れよな!」

「了解だ――依頼料は惜しいが、お前に免じよう」

「頼んだぞ相棒――あぁ、楽しかったぜありがとなお前等!」


 そうして最後に、自分が着ていた黒衣を脱いだその男の顔が顕わになる。

 黒髪の青年、子供のような無邪気な笑みを浮かべながら太陽を浴びて灰になって消えていったのだ。


 そしてこの場に残された三者、ノアは完全に力尽きルクスも満身創痍。 

 唯一傷のないノーチェと呼ばれた女だけがその場で倒れたノアに近付いた。

 ルクスはそれを止めようとしたが、先程の必殺技の反動か上手く動けなかった。


「――何する気?」

「治療するだけだ。さっきあの阿呆が言っただろう依頼は失敗だと」


 何か瓶に入った液体をノアに飲ませるノーチェ。

 その液体が瓶から消えていき、なくなる頃にノアの傷が治り始めた。

 いや、治り始めるというレベルではない――一瞬で傷が全部なくなったのだ。


「前に依頼で貰ったエリクサーだ。これなら大丈夫だろう。貴様の分もあるぞ」

「ありがとう? ――じゃない、何のつもりだよ」


 投げられたエリクサーを受け取ったルクスは礼を言うが、すぐに冷静になり理由を聞いた。


「あいつの最後の頼みだからだ。貴様等には生きて帰ってもらうぞ」



―――――――

――――

――


「あー格好いい格好いいよルクス、やっぱり私の弟子最高!」


 遠目から全てを見ていた私は、一人でテンションが上がりその場で悶えていた。

 ルクスが戦う姿、魔法で頑張る姿、危機的状況で策を貼りめぐらせるその姿――私はその全てを見て満足感に満たされていた


 本当は魔法であの姿を保存したし、何度か見直したい所だけど……今は別にやることがあるから自重しなきゃね。


「あ、久しぶりー元気だったー?」

「貴様、その口調はなんだ?」

「むぅ失礼な、これは由緒正しい久しぶりにあったお姉さん風の挨拶なのにさ」

「御託は言い、用件を言え」


 崖の上ずっと静観していた性悪に会いに行った私は挨拶したのだけど、そんな風に無情に返された。


 こいつネタを言っても面白みないんだよなー。

 ルクスならツッコんでくれるか乗ってくれるかのどっちかなのに……あれ、やっぱり私の弟子最高じゃない? うぅ、早く帰って抱きしめたいけど今は我慢、この性悪と話があるからね。


「これ賭けは私の勝ちって事でいいよね、私の弟子とおまけが君の部下に勝ったし」

「そうだな、儂等は引こう」

「そうしてくれると助かるね、まあ安心してよ今回の件の依頼主は私がなんとかしてくからさ。依頼をなかったことにしてあげようか」

「それはいい、偶の失敗ぐらいどうともならん」

「堅物めー気にしろよー……まあ今回は感謝してるよ、態々依頼を奪ってくれたんだから」


 いやぁ本当に助かったよね。

 本来は別の暗殺集団にあのおまけの方を殺す依頼が言ってたんだけど、ちょーっとだけこいつら吸血鬼にお願いして依頼を奪って貰ったのだ。


 方法は任せたけど、まあ上手くやったでしょ……多分。


「それにしても貴様は歪んでいるな、最初から手助けすればいいだろうに」

「え、それじゃ駄目だよ? ルクスの試練にならないじゃないか、彼は頑張るっていったんだ。だから頑張って貰っただけ、楽に助かるなんて彼の道じゃない」

「……あの少年も難儀だな。貴様等のような怪物達に目を付けられるとは」

「えぇ、酷いなー。私はすっごくあの子を愛しているのにさ――というか等って? 私以外に目を付けられてるのルクス」


 見る目あるけどこの堅物が怪物って言うの限られるよね。

 誰だろ……いや、流石にない――いやメルリちゃん分からないなー。


「儂等の姫だ」

「え、まじか友達になれそう」

「やめろ、地獄が生まれる」

「即答しなくて良くない? 泣くよ私」


 そんなに酷いことはしないと思うよ私とレティちゃん。


 まあ既に友達だって事言ったら面白そうだけど、今は真面目な話してるし言わないでおいてあげようかな? いやここは言ってあげて胃にダメージを与えるのも吉じゃないか? むぅ悩むなぁ。


「喧しい、だが儂等も感謝している。今の戦の少ない時代はロクトのように死に場所を求めるものに取っては辛いものだったからな、あの阿呆を終わらせてくれて感謝しよう」

「まあそういう条件だしね、こっちこそルクスの糧になってくれて感謝はしてるよ」

「…………では儂等は帰ろう、くれぐれもあの少年を殺すな。姫もあの少年を求めてるからな」

「え、それは初耳――ちょ待って? 気になるところで帰るの駄目だともうなー! あ、行っちゃった」


 まじかーレティちゃんもルクスの事狙ってるのかー。

 もしや、ライバル? ……戦争かなこれ。

 まっいいや、ルクスの事迎えに行こっかな! 


「ふふ早く強くなってよ……私のルクス」


 私の私だけの大事な弟子。私に並んでくれる大事な大事な子――唯一私を救ってくれる救世主。

 あぁ、はやく強くならないかな――大丈夫、私が英雄にしてあげるからさ。

 何が何でも何を使ってもどれだけの犠牲を払ったって――私は君の物語を見届けるよ。

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