第15話:裏ボス候補VS吸血鬼
この世界において、吸血鬼という種は戦いを重んじる。
だから一対一で戦うと決められたからには二人に襲われることはないと思っていい。だけど――だからといって、一人に勝てるかは別の話だ。
「どうしたどうした! 逃げてばかりか!」
テンションが上がっているのか槍を乱射しながら襲ってくる吸血鬼。
覚悟を決めて挑んでみたが、圧倒的な経験の差を覆すことは難しく早くも俺は防戦一方となっていた。
しかも、手加減された上でだ。
相手に俺を殺す気があったら今頃俺は死体になっていただろうし、殺す気がなくても既に満身創痍な俺が生き残れる未来なんて全然見えない。
最初の風神弾で魔法が経過されるのか、打つ暇が全くないしこいつは近づけさせてくれないのだ。
で、何より厄介なのが。
「その再生能力!」
なんとか見つけた隙を突いて、男の腕を刎ね飛ばして見たけれど痛みを感じていないのか、そのままこっちに向かってきて避けて視線を戻せばもう傷が治っていたのだ。
「ほらまた治っちまったぞ、もっと頑張れよ!」
相手は吸血鬼、性格的に格下には慢心する魔界出身の魔族。
ありとあらゆる種族の血液を糧にして数百年の時を生きるとされる化物。
身体能力が高いうえに性能が良いリジェネ持ち。弱点は聖銀や太陽の加護が宿った武器や流水でそれ以外の攻撃はあまり効果がない。
魔法に耐性を持っており、唯一効果があると言えるのはノアの使える聖属性魔法だけだ。
俺が聖属性魔法を再現できればよかったが、それはまだ難しいと師匠に止められているので身体強化しか覚えていない。
こんなんだったら無理にでも他の魔法を教えてくれと頼んでおけばよかった。
と思ったが、こんな序盤で吸血鬼と戦う事を想定しろって言うのが無理な話だ。
でも、策はある――吸血鬼故の慢心を突けばいいんだ。
相手はどれほど逆立ちしても勝てない強者、だけど慢心しやすい種族がであることは知っている。だから相手が侮っている内に何が何でも勝負を決める。
というか、それしか道がない。
「ほぉら俺の番だ!」
どこからから剣を作りだした吸血鬼の男は俺を斬りつけてくる。
だが、師匠のアレよりは遅いそれは、俺には当たらない――こういう時こそ思おうが、師匠ってやっぱりバグキャラだろ。
「避けるか! 凄いなお前!」
「お前に褒められても嬉しくないよ! というかいい加減当たれって!」
「それなら頑張れよ、俺はここだぞ? 臓腑に牙を突き立ててみろ!」
言われなくともやってやる。
口にはしないが、そう思い俺は再び攻めることにした。
相手が遊んでいるとはいえ攻撃を受ければ致命傷なのは変わらないので、出来るだけ攻めさせる隙を無くさなければいけないからだ。
それにさっきも行ったが時間は掛けられない。
だって時間が過ぎたらノアは死ぬ――だったら無理してでも俺は勝つしかない。
「急に早くなったな、隠し球か!?」
「さぁ当ててみろよ」
「というか、お前――風使いじゃねぇな。そうか、ははっ創造魔法か!」
何故バレた?
そう思ったが、俺の頭にある知識でその答えはすぐに出た。
吸血鬼は魔力の色が見える。
それは吸血鬼や一部のエルフそして精霊等特有の感覚であり、それを見えるものは相手の使える魔法を知る事が出来るのだ。
後に仲間になる吸血鬼の姫がその能力を持っており、何度も世話になったことを覚えていた俺は、その答えに辿り着き舌打ちした。
バレなければ風魔法で押して、師匠と共に手に入れた必殺技で決めようと思ってたのに――。
「そうだけど何? 都合悪いことでもあるの?」
「いや、嬉しいんだ! だってよぉ創造魔法はハズレっていわれてるだろ? それなのにこんな練度の風魔法を再現しているんだ。よっぽど頑張ったんだよな! 偉い偉いぞ――あぁ、ありがとな俺に殺されに来てくれて!」
狂ってる。
そうとしか思えない思考と発言。
こんな奴に殺されてたまるか、そう思いながらも相手が早くなったのを感じ加減を緩めた事を理解した。
でも、それと同時に気づけたことがある。
俺はさっきからあまり攻撃を与えられていない。だけど、こいつは腹部から血を流しているのだ。
それも少量ではなくかなりの量を――こいつが移動した場所には血の痕が続いている事から今かなりこいつは血を失っている筈だ。
傷が塞がってない?
いや、吸血鬼はリジェネ持ちだ。
そんな筈は……でも待てよ、こいつは俺が来るまでノアと戦っていたはずだ。
そしてノアは聖属性魔法を使えるし、彼奴がただでやられるとは思えない。
「あぁそうか、傷塞がってないんだな」
「何か言ったか?」
「いや、希望が見えただけだよ」
ノアが頑張ったのなら俺もやるしかない。
こいつはいま癒えない傷を持っている――ならそこを狙えばいい。
「やってやる、こいよ吸血鬼」
「顔が変わったな、こいよガキィ!」
――――――
――――
――
剣と剣がぶつかり合う音が聞こえる。
なんとか繋ぎ止めちゃ意識で音の方に視線をやれば、そこには吸血鬼のロクトと名乗った男と誰かが戦っていた。
戦っているのは黒髪の少年、杖のような剣を構えた――オレの大切な奴だった。
「な、んで――ルクスが」
上手く喋れない。
だけど、なんでこいつがここに? いや、今はそうじゃない――援護しないと、助けないと彼奴が死んでしまう。
嫌だ。それだけは嫌だ。
オレは死んでもいい、だけど彼奴だけは生きて欲しいんだ。
でも、もう体は動かない、血を流しすぎたのかピクリとも。
ルクスの奴が相手に接近する。
それを喜々として迎え撃つロクトは、剣でルクスの首を――。
「やめ――え?」
首を刎ねられた筈のルクスの姿が霧散して、消えてしまったのだ。
その光景を見たのは相手も同じようで、あの男が柄にもなく狼狽えていた。
そして、次の瞬間の事だった。
「必殺、
男の後ろに現れたルクスが相手の体に手を突き刺して魔法を放ったのだ。
だけど、それでも男は倒れない――笑みを浮かべながらも、再び剣を取りルクスの命を奪おうとする。
魔法を打ち切ったルクスは動けない。
だけど、ここにはまだオレがいる。
一発なら、あと一発なら今のオレでも!
「――全部持ってけ! モマンハスタァ!」
最後の力を振り絞って渾身の魔法を相手に放った。
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