第14話:英雄候補VS吸血鬼
「はぁッはぁ――勝った、生き残った」
私――いやオレの前に倒れる複数の死体。
オレが命懸けで倒したワイバーン達を前にして槍を杖代わりにして立ち上がり、メルリとかいう奴から貰ったナイフで首を切り落とすことにした。
これで帰れる。
メルリが言ってたが、ワイバーンさえ倒せば孤児院には手は出させないようにするという話だった。だから、大丈夫……それに今考えればルクスが信じた奴だ。
きっと嘘はつかないだろう。
それにこの件には関わってなかったかもしれない……一ヶ月孤児院にいたのを見たが、家族の皆に優しかったしどう見ても害があるようには見えなかった。
少しは評価を改めてもいいかもしれないと、
「いいな! ただのガキだと思ったが、ワイバーンを殺せるなんて驚いたぜ!」
そう思った瞬間、誰かの声が耳に届き……気付けばオレは蹴り飛ばされたいた。
何が起こったか分からぬままに宙に浮き、近くにあった岩に背中を勢いよくぶつけた。受け身は取ることが出来たが……あまりにもダメージが大きくそのままオレは血を吐いた。
「へぇー今の受け身取れるのか! さらにいいぞ、これなら楽しめそうだ!」
「誰……だよ」
「俺か! そうだな普段は名乗るなって言われるが、今日は気分がいいし教えてやろう! 俺はロクト、依頼でお前を殺しに来た!」
「ふざ――けんな!」
そんなにオレを殺したいのか?
目の前にいるのは絶対強者、リリア姉ぇと模擬戦中に感じた気配と同類のモノを宿すそいつにオレは文句しか出てこなかった。
帰えれると思ったのになんでこんな事になるんだよ。
「いいから構えろよ、オレは嬲るのは趣味じゃねぇんだ」
「――ははっやってやる。オレは帰るんだよ」
「そうか、いい願いだな。帰りたいならオレを殺してみろ!」
絶対帰る。
そんな思いでオレは槍を再び構え直してかけだした。
逃げればいいとは思えない、だって速度の違いはもう分かっているから……だからオレは、得意の聖属性魔法を槍に纏い重ねて身体を魔力で強化する。
「おぉはやいはやい! いい殺意だな!」
「うるさい、さっさと当たれ!」
槍で何度も相手を突くがそれは簡単に躱される。
急所を狙い殺そうとしても槍は届かず――完全に遊ばれているとそう感じるも、オレに今できることはこれしかない。
「ほら一発目ぇ!」
かけ声と共に拳が放たれる。
それがあったからオレは咄嗟に聖属性魔法の一つであるシールドを生み出すことが出来て防げたのだが、それは一発で砕かれた。
「その魔力の色――お前、聖属性使いか! いいなぁ、ますます最高だ! 俺等の天敵じゃないか!」
「知るかよさっさと死ねよ!」
「殺せるぞ、お前なら俺を殺せるぞ! ほらもっと頑張れよ!」
どういう事だろうか?
お前なら俺を殺せる? ……いや、気にするな。
どっちみちこいつに勝たなきゃ生き残れないんだ。距離を稼ぎ、限界まで体を酷使して俺は勝つことだけを考える。
「諦めちゃ駄目なんだよ!」
狙うのは奇襲。
槍に意識が向いているのなら隙を探り最大威力の魔法を叩き込むしかない。
それさえ当てれば勝機が見える――あれはトロールの顔面すら消し飛ばせる技だ。小柄なこいつにはきっと効くはず。
「ほら二発目!」
来たこの瞬間だ。
狙うのはカウンターだ――攻撃の時が一番隙が出来るというリリア姉ぇの教えに従いオレは捨て身覚悟で魔法を放つ。
「モマン――ハスタァ!」
放たれるは光速の槍。
ほぼ回避不可能なその技は、相手の腹に突き刺さりそのまま貫通した。
確実な致命傷、普通の生物がこれを受けて生きている訳がない。
「――勝……った?」
相手は動く様子はない。それどころか腹部から大量の血を流しており、どう見ても死んでいる。
勝ちだ――体は限界だけど後は帰ればいい。
首を持って行って広場に戻ればオレは帰れるんだ。
だけどそんな希望を打ち砕くように声が届いた。
「おい、ロクト――いつまで遊んでいるつもりだ? その程度でお前が死ぬわけないだろ」
明らかにさっきの男とは違う声が聞こえたのだ。
そしてその声は倒れた男に向けられている。
「――だってよぉノーチェ、こいつ聖属性使いだぞ! まだ弱いが、天敵だぞ!? 楽しませてくれよ!」
「ならさっさ起き上がれ」
「はいよ! じゃあ第弐ラウンドと行こうぜ英雄候補!」
起き上がりまったく疲れていない様子の男から、そんな絶望がオレに告げられた。
――――――
――――
――
「もう魔力が限界だ――でも、行かなきゃ!」
時間が経ってしまった、俺はかなりのワイバーンを討伐しツバキの能力のおかげで逃げることが出来た。
「それにしてもツバキ、あんな事が出来たんだ助かったよ」
とりあえずツバキに礼を告げ、俺はそのまま先へ進む。
相手のルートは分からないが、ノアを狙っているのなら谷の中腹当たりだろう。
そうやって目星を付けて、向かった先……そこには付いた瞬間噎せ返るような血の臭いが充満していた。
そしてその奥では倒れるノアと一組の男女が――。
「ッ――風神ッ!」
倒れるノアの首筋に噛みつこうとしている男を見て俺の何かが切れた。
体が敵を殺すためだけに魔力を練り始めて、今までにないぐらい荒れ狂っている風神弾が相手に向かって放たれる。
その風神弾はかなりの速度で男に到達し、腕に直撃した。
そしてそれだけには留まらず、相手の腕を抉り奪ったのだ。
「ッ――今日は最高だ! まだ楽しめる相手がいるじゃねぇか!」
攻撃を受けすぐにノアを放り投げこっちに視線を向ける吸血鬼であろう男。そいつはそうやって笑い、俺を見て声を張り上げた。
「追ってきたのか、凄いな」
「あぁさっきお前が言ってた奴か……珍しくお前が興味を持ったみたいだが、死んでなかったんだな」
「私は嗾けただけだからな、死ぬとは思っていなかった。だが、あの様子かなり魔力は限界だろう」
「そんなの関係ねぇ、こいつは強いぞ? 今のみる限り特殊の風魔法! 聖属性には及ばないが、絶対強ぇ! ノーチェ手を出すなよ俺がこいつをやる!」
「別にいい、もう目的は達成したようなものだからな、好きに遊べ」
勝手に決めないで欲しい。
だけど、これを見るにやるしかない。
視界の端にいるノアを見る限り微かにだが動いている。
……時間がないかもしれない、それにこいつを倒せる保証はない。
だけど倒さなきゃ俺達は死ぬんだ。
「――絶対、生き残ってやる」
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