第12話:飛竜の谷へ
……あの夕食事件の後、一日ほどグレイシス家に滞在し王都で色々聞いてみた所、やっぱり王都ではワイバーン討伐で話が回っている事が分かった。
それと、内容としてはワイバーンの首を飛竜の谷から取ってくるというものらしく。監視などは大魔法使いであるメルリ様が……とかいう話だったけど、それなら俺は割と簡単に侵入できるだろう。
師匠曰くバレなきゃ不正じゃないし、君が何かしても隠してあげるよとの事なのでそこは安心していい筈なのだ。
正直言えば、それ大丈夫かなと思ったけど……手助けすると決めた以上、そんな事は言ってられない。
「確か正面から入るっていう情報だし……地図を見る限り――」
迂回してはいるしかないよね。
入り口は三つあるみたいだし、別の道からいけばバレずに済む……はず。
祭り事として広まっているし当日は入り口にかなりの人が集まるだろう。そしてグレイシス家の人達と行く事にはなってるが、まあ迷子になったって言えば乗り切れると思う。
まぁそうすると俺が抜けているという印象がつくかもしれないが……そこはコラテラルダメージって事で割り切ろうか。
「一回下見したいけど、遠いよなぁ」
「ルクス君……何、してるの?」
「地図見てたよ、飛竜の谷のことが気になってさ」
「そう……なんだ。あ、ルクス君飛竜の谷には綺麗な花畑があるんだ!」
「そうなんだ。どこらへんにあるの?」
珍しく嬉しそうな彼女の様子に何処かと聞いて見れば、興奮しながら彼女は地図の一部を指さした。そこはかなり分かりにくい場所であり、下はかなり危険らしいけど、グレイシス家はたまにそこでピクニックをするらしいのだ。
「で、でね……よかったらでいいんだけどね、今度一緒に行きたいなって」
「いいよ、でもノアの試験があるし暫くは行けないんじゃない?」
「う、うん――だから終わったらその子も誘って皆で行きたいの」
「それならいいよ、ノアって花が好きだし丁度良いと思う」
……なら尚更頑張らないとな。
絶対にノアを死なせない。バレちゃ不味いから出来る事は限られているが、彼奴を守るぐらいはバレずにやってみせる。
師匠もいるし、心配はないけど……出来る限り自分で守りたいのだ。
それにもしも師匠に全部任せるなんてのは絶対にここまで来れなかった。あの人はそういう人だし、俺もそれは許せない。あの人を利用して家族を救うなんてやってはいけないのだ。
「ってツバキ? どうしたの?」
師匠に連れて行けと言われた黒狐、ツバキと名付けたその子は何処からか本を持ってきて俺に手渡してきた。
その本のタイトルは、氷魔法の使い方というもので昨日俺が読みたいなと言ってた本だった。
「あ、その本……わたしの部屋のだ」
「え、ごめん。ツバキも勝手に持ってきちゃ駄目だろ」
「別に、いいよ……でもわたしの部屋って鍵かかってた筈だしどう入ったんだろ?」
「読んでもいい?」
「いいよ……でも折り目ついてるかも」
本を開こうとする流れるようにあるページが開かれる。
それを見るに余程そのページを繰り返し読んだことが理解出来た。
で、そのページに書かれている内容が、氷造形魔法の事についてだった。
「あ、リアはこれで勉強したんだね」
「うん、ずっと前に来てくれた家庭教師の人が氷で鳥を作ってくれたんだ。それでわたしもお花作りたくて……いっぱい勉強したの」
「いいじゃん。やっぱり最初にみた魔法って影響されるよね」
俺の場合は前世で見た風の技だが、それをきっかけにこの世界で初めて魔法が使えたので似たようなものだ。
「そうだ……ルクス君はいつまで王都にいるの?」
「ノアの試験が終わったら帰らないと駄目なんだよね、流石に1日は余裕があるから花畑には行きたいけど――勝手にきちゃったし」
「……孤児院の人達には言ってないの?」
「………………言ってない」
「確か孤児院のリリアさんって、怖いんだよね」
「……………………すっごく怖い」
今更だけどさ……せめて行き先ぐらいは伝えてた方が良かった……いや駄目だ。
伝えてたら止められてただろうし、何よりリリアさんが付いてくる可能性があったからだ。
「大丈夫、なの?」
「大丈……ばないけど、大丈夫」
「頑張って? ……でいいのかなぁ」
「応援しててよ……俺頑張るから」
後の事が怖くなりながらも……俺は明日に備えて寝ることにして椿を抱えながら部屋に戻った。
そして翌日の事、グレイシス家の人達に連れられて俺と椿は飛竜の谷に来ていた。
飛竜の谷、それは中盤のダンジョンでありワイバーン達の住処。
谷の奥底には飛竜の上位種である龍がおり、奥に進めば危ないだろう場所だ。
谷の入り口には予想通り王都の住民が集まっており、その視線の先にはメルリ師匠とノアがいる。
とても面倒くさそうに師匠が色々話しており、その他に気になる事と言えば……ローブ姿の誰かがいるくらい。
「確か……あの子は原作の予言師の人だっけ?」
「ルクス君……どう、したの?」
「ううんなんでも……でも本当に人がいっぱいだね」
「そう……だね。英雄候補って珍しいし、仕方ないと思うけど……本当に多いね」
そんな事を話しながら試験が始まる時間を待ち、ノアが一人で飛竜の谷に乗り込んだ所で俺はこっそりとグレイシス家の人達が集まる場所から抜け出して地図を頼りに別の入り口を目指した。
「……何もなきゃいいけどね」
そう言ってみたけど、どうしても俺は嫌な予感が拭えなかった。
リリアさんとノアが修行してたことは知ってるから、ある程度は強くなってるのは分かる……が、用心することに越したことはない。
――
「ほぉーあれが英雄候補か……まだガキじゃねぇか」
「そうがっかりするな、我らは依頼通りアレを殺せばいいだけだ」
飛竜の谷、その崖上にその者達はいた。
数は三、黒衣を纏ったその者達は陽の光の当たらぬ場所で谷の入り口に視線を送っている。
「でもよぉ? まだガキだぜ? ぜってぇ楽しめないって」
「楽しみ楽しまないの問題ではないだろう。我らは傭兵、依頼をこなすだけだ」
「あいあい分かってるって……はぁ、まあ適当にやるわ。にしてもただのガキを殺すために俺等雇うとか人間ってよっぽど馬鹿なのか?」
「知らん、だがこの黒衣まで貰ったんだ。後のことを考えれば契約関係を結んでも損はない」
その者達が纏う黒衣、それは陽の光を打ち消す効果を持っている。
それがあるからこの者達はこの太陽の下でも活動が出来るのだ。
「そうだリーダー? せっかくだから蜥蜴達で肩慣らししてきていいか?」
「構わん、好きにしろ――儂は今回の件には介入せん」
リーダーと呼ばれた黒衣の者達の中で一番背が高いそのモノは、それだけ言ってその場から去った。残された男達はそれに対して何の言葉を返すわけでもなく、各々別の道からノアを殺しに向かったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます